ESG投資のプロが語る「脱炭素マネー」の潮流 気候変動が生み出すリスクとビジネス機会

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――ダイベストメント(投資撤退)の対象となる企業とは。

投資家の一部はすでに石炭や石油・ガスの関連企業の株式を売ったり、投資対象から外したりしている。だが、われわれは異なるアプローチをしている。企業との話し合いやエンゲージメント(建設的対話)を重視する。2021年の現在、どの業界のどの企業が将来的にトランジションに成功するか失敗するかを正確に見通すことはできないからだ。

そのため、原則としてわれわれはダイベストメントを行わない。投資を続け、エンゲージメントを行う。もしくは、リスク調整後リターンで見てリスクが非常に高い場合には新たな投資は行わない。

――ESG投資についてはすでに「バブル」との見方も一部にあります。

市場でブーム&バスト(バブルとその崩壊)が起こるのは、あるタイプの投資やESGストーリーに投資家が一斉に群がり、市場価格が上昇して過剰評価の状態になるためだ。これに対し、ESGを財務分析の1つの要素と考え、ROEやレバレッジ、資産価格なども踏まえて投資を行えば、ブーム&バストにはつながりにくい。

コロナ禍がグリーンスワンかもしれない

――BIS(国際決済銀行)が報告書で警告した気候変動発の金融危機「グリーンスワン」についてはどう考えますか。

気候変動には未知のことが多い。2020年は地球の平均気温が過去最高の気温を記録した年となり、地球温暖化が進んでいるのは事実だ。昨年は(台風などの)熱帯性暴風雨も過去最多となったが、こうした気候変動がこの先、われわれにどう影響するかは見通せない。グリーンスワンのようなことが発生する可能性は否定できないだろう。

人類が自然への侵害、開発を増やしていけばグローバル・パンデミックを引き起こすという科学的証拠も指摘されている。もしかしたら今(のコロナ禍)がまさにその状況であり、グリーンスワン的な出来事と言えるかもしれない。

グリーンスワンを防ぐには、気候変動リスクを考え、それに対応していくことだ。グリーンスワンを待つことはやめよう。課題を理解し、対応策を考えていけば、リスクに対処できるだろう。われわれはポートフォリオの見直しを通じて、リスクに対応していく。

――HSBCグローバル・アセット・マネジメントは合弁で「自然資本」に投資する会社を設立しました。

自然資本としては例えば農地や農業、林業・山林管理、海洋保全、マングローブ林やサンゴ礁の保全などが対象となる。太陽光発電や風力発電事業などは対象とならない。今のところリスクの少ない先進国が対象だ。

投資家は自然保護の必要性を理解しており、われわれが創設した自然資本ファンドへの関心は非常に強い。現在のファンドの規模は小さいため、機関投資家のためのより大規模なファンドを設定する予定だ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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