90歳ブロガーが書き残した孤独と自由と長寿観 「さっちゃんのお気楽ブログ」が今も続く意味

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転機は90歳になった2011年の暮れに訪れた。自作の絵画と文章を毎日更新している90歳ブロガーということで、全国放送の朝のテレビ番組で紹介されたのだ。番組は反響を呼び、幸子さんの家には年に数回はNHKをはじめさまざまなテレビ局や新聞社が取材に訪れるようになった。時にブログで「90歳になってから急に忙しくなった」とこぼすほど日常がにぎやかになり、コメント数も2桁が当たり前になっていった。

またテレビに「元気な90歳」を紹介してくださるそうです
(略)
元気のもとは何ですか?
よく聞かれますが さあ、なんでしょう。
子供の時からおばあさん子の弱虫で引っこみ思案でした
体育のフットベースボールのとき
友達は力いっぱい蹴りますが
わたしはなぜか半分の力しか出さないのです
体を使うことは全力をださないようです
その代わり頭を使うときはとことん熱中します
(2012年8月30日「皆さんに元気をもらっています」より)

一方で身体に現れる老いは深くなっていく。週に2回ヘルパーさんに訪問してもらっているが、90代になるとそれでも不便を感じることが増えてきた。

朝7時に起きて、朝食をとり、午前は新聞に目を通したり絵を描いたり、庭の野菜や花の手入れをしたりして過ごす。昼食をとり、週2回は往復1時間かけて商店街に買い出しに行き、週2回はアトリエに出かける。そして夕方に帰宅してパソコンを開き、ブログをアップ。夕食をとって1日を終える――何年も続けてきた日常が少しずつ困難になっていくのが自分でわかった。

老化から目を背けず、真正面から観察

難聴や物忘れ、足腰のリハビリなどについて触れる日記も徐々に増えていった。ただ、老化から目を背ける気配がみじんもなく、真正面から観察してみせる姿勢を貫いているのが幸子さんらしい。

老人ホームに引っ越したのは2014年10月30日。93歳の誕生日を迎えた翌日のことだった。自活が厳しくなるほどの衰えを受け入れ、およそ40年過ごした自宅から離れた後も、現状の暮らしを前向きに捉える姿勢は変わらなかった。口下手だった自分に訪れた変化を戸惑いながら楽しむ日記が象徴的だ。

最近さっちゃんは自分でもおしゃべりになったと思います。
むかしと言っても1年ほど前のことですが、
一人暮らしだったので、相手がいないので
あまりおしゃべりはしませんでした。
所がこの頃はいらぬおしゃべりをして
後悔ばかりしています。
おしゃべりになった理由を考えてみますと、
毎日接する人が今までは考えられないほど多くなりました。
理由の一つはブログのお友達が新しく次々と増えてきています。
理由の2はお世話になっているホームの職員の方々との
接触が多くなっていることです。
それも毎日入れ替わるので名前を覚えきれない有様です。
(2015年12月10日「おしゃべりになったわけ(1)」より)

老人ホームに引っ越した翌日の日記。2014年以降はsyunさんの動画が組み込まれた日記も多くなっていく
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