90歳ブロガーが書き残した孤独と自由と長寿観 「さっちゃんのお気楽ブログ」が今も続く意味

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今朝は微熱も下がって
体調もすっかり戻ったと
思っていましたが、
昼過ぎから、再び体調がすぐれず
がっかりしています。
皆さんにご心配をかけ申し訳ありません。
考えればもう94年も大した病気もせず
元気に年を重ねてきました。
大変なこともありましたが、
概ねやりたいこともやれ、
楽しいことも沢山経験できたように思います。
これからもどんな面白いことが
待っているのか楽しみです。
(2016年5月8日「五月の夕日」より)

後日syunさんが投稿した訃報によると、亡くなったのは5月9日19時すぎ。死因は心筋梗塞だったという。

ピリオド感のないブログ

「さっちゃんのお気楽ブログ2」は自然な形でsyunさんが引き継いでいる。訃報のあとも、過去の幸子さんの投稿や作品をまとめたり、弟の視点から幸子さんの人生を振り返ったりし、2016年6月下旬までは生前と変わらぬ毎日投稿が続いた。

四十九日をメドに完全に更新を止めるつもりだった。しかし、2021年1月現在も不定期で幸子さんに関する記事の投稿を続けている。syunさんはこう語る。

「読者の方から残してほしいというご要望を多くいただきまして、どうしようかと迷いながら時々、過去の日記を引っ張ってきて更新させてもらっています。今後も読みたいという方がいらっしゃるかぎりは残しておこうと思っています」

四十九日に掲載した日記。この後は不定期投稿となった

最盛期は1日に3000人が訪れた人気ブログで、幸子さんが亡くなって数年経った現在も1日に300~500人がアクセスしている。生前からの読者も新規に訪れる読者もいる。最初は幸子さんによる幸子さんのためのブログだったが、いまは読者のためのブログという色も濃い。syunさんがあえて主体的な行動を控えている根底にはそうした考えがあるように思う。

この、ピリオドが打たれない感じは幸子さんの晩年と少し似ている気がする。

幸子さんはつねに老いを受け入れていたし、100歳まで生きる目標もいつしか実現が難しいと判断するようになっていた。大切な実家や作品の処分に踏み切った心境にも、自分の命が長くないという覚悟がのぞく。それでいて、最後の日記では「これからもどんな面白いことが待っているのか楽しみです」と、未来に期待をつないでもいる。

後悔で満ちた最期ではないが、心残りが完全にゼロというわけでもなさそうだ。死への覚悟と生への希望が共存した不思議な達観が残されているように感じた。

長患いせず、長寿を全うして皆に囲まれて亡くなる情景は人をほっとさせる。「大往生だったね」とハッピーエンドに似た感情をわかせる。けれど、本当のところは本人にしかわからないし、本人でさえも答えを出せていないかもしれない。残されたブログを追いかけても、他人が本当のところにたどり着くのはとても難しい。けれど、考えをめぐらせる強力な機会にはなるだろう。

※参考文献……『90歳ブロガー「さっちゃん」の また、あした。』(堀江幸子、扶桑社)

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。元葬儀業のライターで、キャリアは15年。デジタル遺品や死後のインターネットコンテンツの行方などを追っている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『中の人』(KADOKAWA)など。

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