(第9回)円高犬は吠えなかった、それこそが重要だった


 この状態が10年続くと、GM車は2・4万ドルになる。15年続けば、3万ドルを超える。一方、トヨタ車は2万ドルのままだ。つまり、性能が同じであるにもかかわらず、GM車はトヨタ車の1・5倍もの価格になってしまう。だから、トヨタ車が圧倒的な価格競争力を持つ。

こうした事態にならないためには、円がドルに対して、日米物価上昇率の差(今の数値例では年率3%)だけ毎年増価する必要がある。そうなった場合の為替レートを「購買力平価」(によるレート)という。

95年1月の円ドルレートを基準とし、現実の日米消費者物価のデータを用いて購買力平価を計算してみると、図に示すようになる。06、07年頃には、現実のレートが購買力平価に比べて大幅に円安になっていることがわかる。

つまり、この数値例のようなことが、現実にも生じたのだ。購買力平価どおりの円高が生じなかったので、日本からの輸出の価格競争力が著しく高まったのである。アメリカの道路がトヨタ車で埋め尽くされてしまったのは、当然のことだ。

円キャリーで金利差を稼げた理由

日本とアメリカの間には、名目金利の差もあった。この差もほぼ3%である。名目金利は実質金利にインフレ率を加えたものなので、日米の実質金利が等しいとすれば、このようなことになる。

この状況下で何が起こるだろうか。日本で運用しても、金利収入はほとんどゼロだ。ところが、円をドルに換えてドル資産で運用すれば、3%の金利収入が得られる。

ところで、購買力平価どおりに円高になっていれば、円に戻すときに為替差損が発生し、金利差分が打ち消される。しかし、名目為替レートが不変ならば、金利差分だけの利益が残る。したがって円で調達した資金をドル資産で運用する取引が増える。この取引は「円キャリー取引」と呼ばれる。アメリカのヘッジファンドなどが、こうした取引を行った。

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