「残り2エンドで1点差負け、次が先攻」の場合、実は勝率はわずか12.2%しかない。1点差から感じる「接戦」という直感からは大きくずれていないだろうか。
この解答を導いたのは「勝率テーブル」という統計データである。山本氏の自律系工学研究室が開発したカーリング戦略AI「じりつくん」に、自己対戦させた結果をまとめたものだ。
AIによる自己対戦の結果を集積したものとはいえ、このデータは単なる机上の計算ではない。人間でもトップレベルの試合では、勝率テーブルとほぼ同じ結果になるという。
自身も札幌のカーリングチーム「バックギャモン」でプレーする山本氏は次のように言う。
「AIの計算は、直感とかけ離れた数字かもしれません。スコアは“接戦”と表現されがちな展開ですが、実は絶望的な状況なのです。こうならないよう、ゲームを展開させていかないとなりません」
延長戦に進むべきか、逆転勝利を狙うべきか
この勝率テーブルが生きてくる場面は数多い。山本氏の指導に従って、エキストラエンド(延長戦)に入る場合を考えてみよう。
第10エンド、後攻で1点負けの状態。1点を取ってエキストラエンドに進むべきか、あるいはリスクを取ってでも2点を取りにいって逆転勝利を狙うべきか。
この勝率テーブルによると、エキストラエンドに進んで先攻となった場合の勝率は22.0%しかない。「エキストラエンドに進もう」という選択は、状況によっては間違っている場合がある。
「エキストラエンドに入ると、リセットして頑張ろうとなりがち。でもトップチームはほぼミスをしないので、先攻でスチールすることは難しい。
この場面の戦略は、2点を取りにいくショットの成功率や、そのショットを狙うことでスチールされてしまう確率などを考慮して検討すべきです。戦略のポイントは22%を見積もることができているかどうかです。勝率テーブルの考え方を知らないと、リスクとの比較ができないのです」
世界レベルでも、こうした統計はまだほとんど使われていないという。
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