「カーリング界の大転換」に挑む北大AIの先導者 テクノロジーを導入しないスポーツは衰退する

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「残り2エンドで1点差負け、次が先攻」の場合、実は勝率はわずか12.2%しかない。1点差から感じる「接戦」という直感からは大きくずれていないだろうか。

この解答を導いたのは「勝率テーブル」という統計データである。山本氏の自律系工学研究室が開発したカーリング戦略AI「じりつくん」に、自己対戦させた結果をまとめたものだ。

開発したAI「じりつくん」の自己対戦結果をまとめた「勝利テーブル」(山本雅人氏提供)

AIによる自己対戦の結果を集積したものとはいえ、このデータは単なる机上の計算ではない。人間でもトップレベルの試合では、勝率テーブルとほぼ同じ結果になるという。

自身も札幌のカーリングチーム「バックギャモン」でプレーする山本氏は次のように言う。

「AIの計算は、直感とかけ離れた数字かもしれません。スコアは“接戦”と表現されがちな展開ですが、実は絶望的な状況なのです。こうならないよう、ゲームを展開させていかないとなりません」

延長戦に進むべきか、逆転勝利を狙うべきか

この勝率テーブルが生きてくる場面は数多い。山本氏の指導に従って、エキストラエンド(延長戦)に入る場合を考えてみよう。

やまもと・まさひと 1968年北海道生まれ。1996年北海道大学大学院工学研究科博士後期課程修了(情報工学専攻)、工学博士(北海道大学)。現在は北海道大学情報科学研究院情報理工学部門複合情報工学分野教授(高木徹哉撮影

第10エンド、後攻で1点負けの状態。1点を取ってエキストラエンドに進むべきか、あるいはリスクを取ってでも2点を取りにいって逆転勝利を狙うべきか。

この勝率テーブルによると、エキストラエンドに進んで先攻となった場合の勝率は22.0%しかない。「エキストラエンドに進もう」という選択は、状況によっては間違っている場合がある。

「エキストラエンドに入ると、リセットして頑張ろうとなりがち。でもトップチームはほぼミスをしないので、先攻でスチールすることは難しい。

この場面の戦略は、2点を取りにいくショットの成功率や、そのショットを狙うことでスチールされてしまう確率などを考慮して検討すべきです。戦略のポイントは22%を見積もることができているかどうかです。勝率テーブルの考え方を知らないと、リスクとの比較ができないのです」

世界レベルでも、こうした統計はまだほとんど使われていないという。

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