武田:日本はコロナ禍になってから、文化芸術に対するケアが手薄いのではないか、という議論が起こりましたが、中国はどうだったのでしょう?
飯塚:習近平体制になってから、創作や言論に関わる人たちにとっては生きにくさが確実に強まっています。そういう中で、コロナの問題が起こったわけです。余計書きにくいですし、書くとしたらコロナを封じ込めた成功体験みたいなものを書くことがいまは求められています。そういう雰囲気、空気感はあるでしょう。
国家を支持する「プラスのエネルギー」
武田:昨年出た、梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)を読んでとても印象的だったのは、「習近平体制になってから登場した言葉に『正能量(ポジティブ・エネルギー)』というものがあります。
ネットにネガティブな言葉を流通させるのではなく、ポジティブな言葉を流通させて、社会を肯定的に捉えるという雰囲気を保とうという意味です。(中略)この目的はかなりのレベルで果たされているように思われます」と書かれていたこと。本当にそうなのかなと思っていたのですが、この「ポジティブ・エネルギー」が、コロナ禍で機能してしまったということなのでしょうか?
飯塚:その言葉は、『武漢日記』でも頻繁に出てくる一種のキーワードです。私たちの訳では「プラスのエネルギー」としました。「プラスのエネルギー」と「マイナスのエネルギー」。この言葉は本当に流行語の1つです。方方さんに対する批判として、「プラスのエネルギーに欠けている」「おまえの書いているものはマイナスのエネルギーにほかならない」という言い方がたくさん見られました。
武田:日本では、安倍さんが辞意を表明すると「まずはお疲れさまを言おう」みたいな雰囲気に包まれましたが。
飯塚:「病気でやめた人の悪口を言うのはよくない」とか「オリンピックなんかできない、などと言うのは国賊だ」みたいなのと同じレベルの話じゃないかと思います。
武田:中国の場合は、その「プラスのエネルギー」が国家の力を増大させるために整備されている、ということですね。
飯塚:それを支持する一般の人たちがいるからです。自分たちの国は強いんだ、どんどん発展していくんだ、と思いたい人が多いんだろうと思います。一概に否定はできません。そういう思いと「プラスのエネルギー」という考え方が合致して、力を持っているのでしょう。
武田:新型コロナウイルスの発生源についてさまざまな説が飛び交っていますが、中国から感染が広がっていったことは事実で、トランプ大統領などは、わざと「チャイナウイルス」と言うし、日本でもわざわざ「武漢肺炎」と書く人もいる。そういった視線を外からぶつけられる中で、その「プラスのエネルギー」が自信を失っているというか、しょぼくれている感覚などあるのでしょうか?
飯塚:いや、そんな感じはまったくないです。とにかく、あれだけひどかった感染を短期間に終息させたんですから、すごいことはすごいんですよね。それができない国もあるわけですから、そうした部分をたたえたくなる気持ちが自然にあるんだろうと思います。
(後編へ続く)
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