武田:方方さんはネット上で極左の政権支持派から強い攻撃を受けています。安倍晋三前首相は、日本でいう「ネトウヨ」の書き込み先でもある「保守速報」をフェイスブックでシェアしたことがある。明言はしないものの、こういった物言いと非常に距離の近いところにあった。中国では、この手の書き込みと政府当局は、どのような距離感なのでしょう。
飯塚:構造としては日本と中国は右と左が逆になりますが、そういった言論は日本と同様にたくさんあります。とくにネット上にあふれています。さすがに政府は「いいね」は押さないですが、放置することによる世論操作は可能でしょう。政府が取り締まれば当然消えるわけですから。その辺のことはさすがに日記ではあからさまには書いてはいませんが。
日記は後半になるほど「書いたら消される」ように
武田:方方さんの日記は後半になるほど、「書いたら消される」ようになっていきます。それは彼女が、著名な作家で影響力もあるからこそチェックされて消されていたのか、それとも批判的な書き込みをすれば誰であろうと根こそぎ消されるのか、どちらなのでしょう。
飯塚:知名度があることが大きかったと思います。方方さん以外にもいろいろな日記やそれに類する記録が書かれて、ネット上にもたくさん発表されていますが、いちばん注目され、やり玉にあげられたのが方方さんのものでした。それだけフォロワーも多く影響力があったということでしょうし、見せしめ的にたたこうとしたのかもしれません。
武田:逆に言えば、書き続ける行為自体は許されていた。すぐ消されはするけれど、拘束されたりはしなかったわけですね。
飯塚:そうですね。さっき監視社会と言いましたが、いまはソフトな監視社会なので、いきなり連行されたり、殴られたりとか、そういうことではありません。また、方方さんはネット上で批判があると、ちゃんとそれに答えます。いちいち怒るわけです。
そして、武田さんの文章(本田靖春の作品集『複眼で見よ』〈河出文庫〉の解説)の中に「私たちは今、ちゃんと怒れているだろうか」という言葉がありましたが、まさに方方さんは「ちゃんと怒る」人なんですね。無視したらいいのに、と思うんですが、ちゃんと怒るので、またそれに反論がきてどんどん拡大していったところもあるかもしれません。
武田:確かに、この本を読み通すだけでも、方方さんの執拗さ、しつこさが感じられます。
飯塚:非常に粘り強いところがありますね。そうじゃないと生きていけないんでしょう。