人事異動のミスリードが引き起こす残念な真実 「本心を聴くチカラ」が業績を左右する要因に

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新しいプロジェクトのリーダーに抜擢されたのだが、まったくやる気が出ない。期待されているのを感じれば感じるほど気が滅入り、仕事も忙しいのに、前向きになれずに困っているという訴えでした。

地方出身で、地元に彼女がいて、時期は決まっていないが結婚を予定している。実家の両親が家業をしていることもあり、結婚を機に仕事を辞めて地元に戻る話が具体化し始めた、ちょうどそのときにプロジェクトの話がきた。チャンスだと思った。やはり今の仕事にも少し未練があったので、これで選ばれなければ、心置きなく会社を辞められると思った。

自分は、大げさに表現するところがあり、思ってもいないことでも口に出してしまうところがある、それをやる気と捉えられて選ばれてしまった。

内心、もう1人のほうに決まってくれたらとずっと思っていたので、はっきりいって重荷でしかない。今の仕事は忙しく、休みをとるのもままならない。今までは、地方にいる彼女に会いに行くために有休を使っていた。それもできなくなって、このままの状態で責任のある仕事をまっとうできるのか不安しかない。

部下の状況や心情を普段から把握しておくべき

私が、相談を通して2人の状況を知ったのは、プロジェクト開始から2カ月が経った頃です。実は、こうしたケースはよくあります。そのたびに、このような事態になる前に何か手立てはなかったのか?と考えます。もっと早くに話を聞くことができていたならと思うこともしばしばですが、そうは言っても予防は難しく、後の祭りです。

決して正解はないですし、もし結果が違ってB氏が選ばれてしたとしても新たな問題が起こる可能性もあります。しかし、少なくともB氏が選ばれていたほうが、何よりも本人たちの望む方向であったことには間違いありません。

もちろん、スキルや素養は大きな問題です。しかし、意欲やモチベーションが保てなければ、それを発揮することさえままならないのです。ですから、上司や選考にあたる人たちは、そのことを見てほしいと切に思います。何かに取り組むときに、本人の気持ちの整理は必要だと強く感じるのです。

もし選考中に彼らとカウンセリングしていたらと思うと残念です。自分の意思を自身で確認することで、少なくとも言動は変わったのではないかと思うのです。

カウンセリングは、不調など何か事が起こってから受けるより、普段の自分の状態を確認したり、意思や目標を明確にする場であってほしいと願っています。さらには、最も有効な第1次予防として、変化に迫られたり、環境が変わる前に受けてほしいと思っています。そのためには、カウンセリング利用のハードルを低くすること、そして日々、上司が部下の状況や心情を把握する機会があることが何よりも大切です。

1on1などの個別ミーティングも奨励されていますが、形骸化することなく、あくまでも普段の状態や本人の意向を知るきっかけにしてほしいと思います。だからこそ、社員同士のコミュニケーションをないがしろにせず、丁寧に関わってほしいと思うのです。聴くチカラは、相手から話してもらえることにつながりますので、気持ちを受け止める対応を。

※文章中のエピソードは、個人の特定を避けるため、実際にあった事例をもとに脚色しています。
大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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