米大統領選、なぜ「高齢者候補」が好まれるのか 大統領は「キング」であり、選挙は「内戦」である

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アメリカ大統領に求められている資質とは何か? (写真:Kana Design Image/PIXTA)
世界が注目するアメリカ大統領選が間近に迫っている。「4年に1度の内戦」とも称されるこの一大イベントは、アメリカの政治・思想・社会を映す鏡だと言われる。
アメリカにおける大統領選はいかなる意味を持つのか。大統領とはいかなる存在なのか。アメリカ政治思想史を専門とする気鋭の学者、帝京大学・石川敬史氏に話を聞いた。
最終回となる第4回は、アメリカ大統領に求められている資質とは何かを考える。

アメリカ大統領選は「4年に1度の内戦」

佐々木一寿(以下、佐々木):いよいよ大統領選が目前に迫ってきました。

石川敬史(以下、石川):アメリカは建国以来、もともと非常に多元的な国です。と同時に、実はジャクソン(第7代大統領、1829年)以降のアメリカでは、連邦政府の力を使っていかに地方に予算を引っ張れるかが政治家にとってとても重要だ、というのがわかってきました。アメリカの内政史の多くは開拓の歴史ですから、西部の政治家、フロンティアの政治家の手腕とは中央政府から予算を奪い取る力でもあるのです。事実、西部開拓に投入された連邦予算は膨大なものでした。

つまり、アメリカは多元的なのですが、連邦政府の権威に対しての合意形成は長い目で見ると着々と進んでいて、それが革新主義とニューディール・リベラリズムを経てしっかり固まりました。ですから、分裂、分裂とよく言われますが、それは国家として違う国に分かれましょうという衝動ではなく、あくまでも大統領=キングの選出を目指して争う「対抗戦的な分裂」なのです。

逆説的なのですが、アメリカはあまりにも多元性が強力であるため、政治はつねに統一を主張するようになるのです。端的にアメリカはすべての選挙が小選挙区制です。複数政党制は、過剰に多元的なアメリカには忌まわしいほどに不吉なのです。それゆえ彼らに小選挙区制以外の選択肢はなく、それが分極という構造を形成してしまいます。

アメリカは、建国以来(南北戦争を頂点にして)ずっと、連邦政府の主導権をめぐる「内戦状態」にあるわけです。そして、大統領選挙というのは「内戦を流血なしに行うシステムであり、4年に1回必ず行われる内戦」なのです。大統領選挙とは4年ないし8年のさまざまな不満に暫定的にケリをつける行事であり、アメリカのデモクラシーを本質的に弱らせるものではなく、むしろ、アメリカのデモクラシーと密接に関わっているものだと思います。

佐々木:各州を結束させるために大統領選は必要なのですね。

石川:参考意見として挙げておきたいのは、ジョン・カルフーンというアンティ・ベラム期(Antebellum、南北戦争以前)のサウスカロライナの政治家の意見です。彼は第6代大統領ジョン・クインジー・アダムズの副大統領になった人で、南部を代表する政治家ですが、「無効宣言」というものを主張するんですね。それは、「連邦政府で作られた法律であっても、州が拒否すれば適用されない」という議論で、その根拠は「合衆国憲法というのはもともと州が同意してできたものなのだから、州が同意しない連邦政府の法律は拒否して構わない」というのが骨子です。アメリカ合衆国憲法は諸州間の協定であるというのが彼の理解です。

それからもう1つ、カルフーンは「競合的多数理論」という提案もしています。利益というのは唯一のナショナルな利益があるのではなくて、各地域の利益があるのであって、「それぞれの利益を共有する者どうしが集まって熟議をして、自分たちの結論を決め、連邦政府はそれぞれの利益代表が調整を行う場である」というわけです。彼によれば、それが真の民主主義だ、という主張です。つまり単純多数決は民主主義ではない、というんですね。これは今の熟議民主主義を彷彿とさせる先進的理論です。

アメリカの歴史や憲法史を踏まえたときに「無効宣言」も「競合的多数理論」もある種、とても正しいわけです。ところが、どちらの意見も南北戦争でたたき潰されます。なぜかというと、リンカンが「ユニオンの維持」とよく言っていましたが、まさにそれこそが大統領の至上命題なのです。「無効宣言」なんて言われたら、ユニオンは崩れてしまう。それゆえ、リンカンは「ユニオンは連邦より古い」なんて言うんですね。アメリカという1つの国家は、連邦つまり“諸邦による連合”よりも古いんだと。ですが、これは明らかに嘘です(笑)。

リンカンは、政治的な信条として確信犯的に歴史学的には正しくないことを言っています。リンカンは独立戦争よりもずっと後に生まれた人であり、彼にとってのアメリカはジョージ・ワシントンのアメリカであり、ジェファソンのアメリカであって、合衆国憲法が諸州間の協定に過ぎないものであるというカルフーンの主張は、リンカンにとっての政治的真実ではなかったのです。連邦をなんとか維持しようというアメリカ大統領の主な仕事を、フェデラリスツとリパブリカンズの対立を知っているカルフーンなどの古参らでなく、まったく新世代のリンカンが行ったのですね。

史実を知っている古参たちの理屈を新参者の若手が潰して、むしろ建国の理念を実現してしまったということです。これはとてもアメリカらしいことですし、ある意味、アメリカが理念で成り立っている国だということに、通底するところだろうと思います。

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