「リンカン」以後、無名の大統領が続いた理由

トランプが目指すのは「黄金の1920年代」の幸福

アメリカにおける大統領選はいかなる意味を持つのか。大統領とはいかなる存在なのか(イラスト:benchart/PIXTA)
世界が注目するアメリカ大統領選が間近に迫っている。「4年に1度の内戦」とも称されるこの一大イベントは、アメリカの政治・思想・社会を映す鏡だと言われる。
アメリカにおける大統領選はいかなる意味を持つのか。大統領とはいかなる存在なのか。アメリカ政治思想史を専門とする気鋭の学者、帝京大学・石川敬史氏に話を聞いた。
第2回は、リンカン以後、「金ぴか」時代を経て「黄金の1920年代」までの歴史をたどる。

大同団結した共和党の大統領

佐々木一寿(以下、佐々木)前回、リンカンの時代に大同団結して「共和党」が結成されたとのことでしたが、アメリカ政治史において、どのような意味を持つのでしょうか。

石川敬史(以下、石川):民主党以外が大同団結して作ったのが「共和党」で、1860年の大統領選挙において、この共和党の大統領候補に指名されたのが、第16代大統領となるエイブラハム・リンカンでした。リンカンは、イリノイ州の人です。イリノイ州は建国の頃にはまだ存在していなかった州ですから、アメリカ史は完全に次のフェーズに入ったと言えます。

第6代大統領までは、古典的教養を持つ紳士階層がアメリカを統治していました。トマス・ジェファソンは確認できる範囲で11カ国語の読み書きができたといいます。彼らは、ギリシャ語、ラテン語などが普通にできる人たちなのですが、ジャクソンは英語しか解しませんでした。リンカンは、ジャクソンよりはるかに知的な人物ですが、彼もまったく学校教育を受けた経験がないということで、この人も“純アメリカ”の大統領です。

ちなみに、このときの民主党の対立候補もイリノイ州のダグラスという人で、イリノイ出身者同士で大統領選挙が戦われているのは面白いですね。どちらもアメリカ合衆国の独立時には存在していない西部の州です。大同団結の共和党ですから、誰がなってもけんかになるということで、イリノイから来たよくわからない男(リンカン)が指名されたといわれてきました。しかしこれはあくまでも東部中心のリンカン像で、近年の研究では、リンカンは政党政治家として着実に大統領候補への階梯を登っていたという見方が有力です。

共和党が成立し、リンカンが第16代大統領に当選した意味は、南部諸州に取ってはあまりに大きなものでした。もともと少数勢力であったプランター支配が失われることが明らかになったからです。それを悟った南部奴隷州のうち11州が連邦離脱しアメリカ連合国(南部連合)の建国を宣言したことにより南北戦争が起こります。アメリカは最初から分裂していたと説明してきましたが、その分裂がとうとう「内戦」にまで至ったのが、この南北戦争だったのです。

それまでの大統領たちは「アメリカの分裂阻止」が政治の至上命題でしたので、リンカンも「ユニオン(連邦)の維持」ということを主張して、大統領選挙に出馬しました。ですから、リンカンとしては、この南北戦争は本当に身が引き裂かれるほどつらいものだったはずですが、彼が歴代大統領たちと違ったのは、内戦を辞さなかったことです。

リンカンは、連邦の維持とは、つまるところ、南部連合を滅ぼすことでしか維持できないということを明確に認識していたのです。それゆえ徹底した戦争が行われます。そして、この戦争は連邦(北軍)の勝利となり、この後、南部の再建、連邦の再統合が行われ、アメリカの統一は維持されます。

大プランター支配が武力によって終焉し、黒人奴隷制度も修正13条により消滅するのですが、本来ならば解放された黒人をいかにしてアメリカ市民として再編成するかがリンカン政権2期目の課題だったはずです。しかし、1865年にリンカンは暗殺されてしまいます。

その後、副大統領だったジョンソンが大統領に昇格し、さらに北軍司令官だった英雄グラントが共和党の大統領となりますが、残念ながら彼らはこの最も困難な問題には何も業績を残せませんでした。思えば、この時期に解放された黒人をアメリカ市民にする努力が何もなされなかったことが今日のブラック・ライブズ・マター(BLM)の問題に直接つながっていると考えざるをえません。リンカンが暗殺されていなければどうだったのだろうと想像することがありますが、これは何ともわかりません。

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