「超時空国家」アメリカを生み出す原動力

日本に足りないのは「パワフルな妄想」だ

トランプは決して最初に現れた狂気と幻想の大統領ではない。気鋭の論客4人が『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』をめぐって徹底討議(写真:hidesy/iStock)
内外で議論の最先端となっている文献を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズ。前回、評論家・作家の佐藤健志氏が、『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』から、アメリカの大衆文化や21世紀世界のゆくえを論じた。今回は、同氏と中野剛志(評論家)、施光恒(九州大学大学院准教授)、柴山桂太(京都大学大学院准教授)の気鋭の論客4人が、同書をめぐって徹底討議する。

アメリカはなぜファンタジーランド化したのか

佐藤健志(以下、佐藤):著者のアンダーセンは『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』において、「幻想や魔術的思考がはびこる点で、アメリカは世界でも特異な国だ」と主張しますが、実はこれ自体に「わが国は何につけても際立っているはず」というアメリカ的な幻想が感じられます。

『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

かつての社会主義諸国もそうですが、戦時中の日本における神国思想や、戦後の憲法9条崇拝だって、外から見たらオカルトじみていますよ。ナチス・ドイツでは精液から輸血用の代用血漿をつくる研究が行われましたし、ヒトラーは占星術を信じていた。

中野剛志(以下、中野):もちろん日本にもそういう人はいますが、僕はこの本を読んで、「さすがに日本はここまではひどくない」と感じました(笑)。

ヒトラーと日本の戦後平和主義については、そこに至る前段があると思うんです。世界大戦で敗れた結果、それまで信じていたもの、頼っていたものを失って、代わりにすがるものを求めたという面があったんじゃないか。

アメリカもまた、70年代にオカルトに走ったのも、やはり60年代後半から70年代、ベトナム戦争で傷つき、それまでの信念が大きく揺らいだということがあるでしょう。

佐藤:1960年代末にヒッピーがつくったコミューン(共同体)には、「入植初期の時代への回帰」という側面がありましたね。スピリチュアル志向の強い人々が荒野の真ん中に小屋を建て、理想の生活と称して農業をやったわけですから。

宗教、とくにカルト的急進派や新興宗教をめぐる環境で、アメリカが他の国と違うのは、国が広いということでしょう。特定の集団が「幻想のコミュニティー」をつくっても、仲間内で固まってしまえば、ほかの「幻想のコミュニティー」と接触せずに済む。わかりやすい例が、モルモン教のつくったソルトレークシティーです。あるいはアーミッシュのような人々もいる。

ただしモルモン教は1857年、ソルトレーク近辺に滞在していた開拓団を襲撃・虐殺、それをきっかけにアメリカ陸軍とまでやり合いました。後の「人民寺院」や「ブランチ・ダビディアン」もそうですが、幻想と現実の折り合いがつかなくなると大変なのです。

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