佐藤:時間が止まるというのは、物理的環境がもたらす制約からの解放を意味します。時間のない世界でなら、老いも死もありえません。UFOを間近で見たり、UFOに拉致されたりしている間も、時間は経過しないことになっています。
『ファンタジーランド』の冒頭には、SF作家フィリップ・K・ディックの言葉が引用されています。アメリカの虚構性にとても敏感だった人ですが、彼も自分の神秘体験を根拠に「紀元70年から1945年まで真の時間は止まっていた」と主張しました。その間は、時間が経過しているように思わせるため、誰かが世界の見かけだけを変えていたそうです。
中野:それを本気で信じていたわけだ。
柴山:ディズニーランドもできるだけ時間を感じさせないような仕組みになっているし、アメリカにはそういう潜在的な願望が強力にあるということでしょうね。
われわれ日本人は「アメリカこそ進歩主義を代表する国であり、アメリカ人は未来志向の人たちの集まり」と思っているけれども、この本を読むと、「アメリカは決められた時間軸から何とか抜け出して、時間を超越したファンタジーの中に逃げ込みたいと願っている人たちの集まり」と思えてくる。
施:「時間から抜け出したいと願っている」という解釈には、私も賛成ですね。どこの国にもファンタジーはあるけれども、アメリカのファンタジーはそういう点が普通の国とちょっと違うという気がします。
アメリカのファンタジーは「普遍」を目指す
施:アメリカに幻想が蔓延しているという話には、「まあ、勝手にどうぞ」と感じる部分もあるんですが、現実にはこちらまで影響を受けてしまうのが困ったところで。
中野:勝手にやってもらうには大きすぎますからね。
施:1つの問題は彼らが自分たちの「アメリカの夢」を世界に押し付けようとしてくることなんです。
彼らは「自分たちはいろいろな文化から来た人の集合体をまとめ、さらに時代まで超越した」と考えている節があって、「どの国だろうとどの時代だろうと、俺たちのやり方が一番なんだ」という言い方をしてくる。実際、本当にそう思っているんでしょうね。
そう言われると信じて真似しようとする人たちが世界のあちこちで出てくる。ところが実際にはアメリカのやり方はアメリカに合ったやり方であって、彼らが考えているほど普遍的なものではない。結果、アメリカの夢にからめ捕られて調子を崩してしまう国が続出してしまう。
柴山:それがグローバリズムに熱中していた平成の日本だった、と。
施:アメリカの野球のメジャーリーグにしても、本来は単なるアメリカという国のリーグにすぎないのに、「俺たちこそが普遍的なリーグだ。世界中の優秀な選手はみんなアメリカを目指すべきだ」という物語を掲げている。
中野:アメリカとカナダの2カ国のチームしか参加していないのに、ワールドシリーズなんて言ってますものね。
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