「超時空国家」アメリカを生み出す原動力

日本に足りないのは「パワフルな妄想」だ

施光恒(以下、施):『ファンタジーランド』ではゴールドラッシュや宗教の話が前半のかなりの部分を占めていますね。私はやはりそこにアメリカの特殊性の起源があるのではないかと感じます。何もないところに集まってきた人々をまとめて、国をつくったという過程ですね。

さまざまな文化、宗教を持った人たち同士で、互いの絆をつくり国を建てていこうとすると、必然的にどこの文化にも属さない人工的な、ディズニーランドのようなファンタジー国家を目指さざるをえない。

本の中で触れられていた『プレイボーイ』的なファンタジーも、共通の伝統や文化がないところで男たちが互いの結び付きをつくろうとした結果ではないかと感じます。国をつくるためにディズニーランド的、プレイボーイ的物語に頼るしかなかったというのは、アメリカという国の特異な成り立ちでしょう。

中野:みなさんがおっしゃるとおり、「広くて、何もなかった」というのがファンタジーランド成立の要因かもしれませんね。

人間は誰でも妄想を持つし、幻想も持つ。ただ普通の国で自分の妄想で理想郷をつくろうとしても、そう簡単に子どもっぽい理想は実現できない。いつまでもファンタジーを信じていると、子どもが大人になっていく過程で周りから叩かれ、鍛えられて、ある程度の歳になると落ち着いていくわけです。

これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論します。この連載の記事一覧はこちら

そういう妄想の修正作業をしているのが伝統であり、慣習である。ところがアメリカは広いうえに共通の伝統はないし、元からいた先住民も虐殺してしまった。こうなると妄想を修正する文化的圧力もなくなって、国中の子どもたちがそれぞれの妄想を抱いたまま成人してしまった。それがあの国をファンタジーランドと化したのではないか。

柴山桂太(以下、柴山):なるほど。

時間概念の喪失

柴山:僕がこの本で面白いと思ったのが、マイケル・ジャクソンの話でした。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家、作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』(1989年)で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋、1992年)以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。主な著書に『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『右の売国、左の亡国』(アスペクト)など。最新刊は『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)(写真:佐藤 健志)

彼は子どもたちと交流するためにネバーランドをつくって、「大人になりたくない」と言っていたわけですね。そのあたりが極めてアメリカ的だと感じたんです。ああいう感覚はどこから来るんですかね。

佐藤:魔術的思考の極致は、意志の力で老いや死を超越できると信じることです。その意味で、究極の自由とは「老いない自由」であり「死なない自由」なんですよ。

柴山:不死を求めているということですか。

佐藤:どんなことであれ、心から真実だと信じれば、それが真実だと構えるのがアメリカ流。とすれば「死なないと心から信じたら、死ぬはずはない」という結論が待っている。

中野:すごいな(笑)。

柴山:おそらく彼のファンタジーの世界では、時間は止まっていたんでしょうね。

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