「リンカン」以後、無名の大統領が続いた理由 トランプが目指すのは「黄金の1920年代」の幸福
石川:アメリカ史の大家だった斎藤眞は『アメリカ政治外交史[第2版]』(東京大学出版会)の中で、1920年代を「非常に凡庸な時代」と表現しています。これは、金ぴか時代の評価と少し似ているところがあって、目覚ましい政治的な事例はない時代なのですが、この時代に、化学工業、機械工学、そして映画産業が発展します。
佐々木:カート・アンダーセンのいう「幻想・産業複合体」ですね。
石川:映画産業は、この時代のアメリカで大きく飛躍し、チャップリンもこの時代に活躍しています。私たちが抱いているアメリカのポップなイメージができたのもこの頃で、アメリカが本当に「ファンタジーランド」になるのは、実はこの時代でした。そして、大学の研究者、政治史学者が「凡庸なる時代」と呼んだまさにこの時代は、アメリカにとっては最も幸福な時代でした。とくに第1次大戦後の特需により、空前の好況期だったのです。
トランプが目指すのは「黄金の1920年代」
石川:トランプ大統領が選挙戦で使ったメッセージ、”Make America Great Again”というものが具体的にいつを指し示しているのかといえば、明言はされてはいませんが、私はおそらくこの1920年代ではないかと思っています。アメリカがこれほど景気がよかった時代もありません。そして高い関税障壁も復活しました。それから、移民もたくさん入ってきますが、とにかく慢性的な労働者不足で、仕事はつねにあるという状態でした。アメリカが非常に幸福な時代だったと言えると思います。
ただ、これも1929年10月に株式相場の大暴落をきっかけにして一変することになります。世界恐慌の到来です。レッセ・フェールにしておきさえすれば適切な経済運営がなされるはずと思っていたら、市場は大きな失敗をしたんですね。「経済自由主義」というのはアメリカ保守主義の不思議な中核的原理なのですが、この肝心なところに破綻が生じたのです。
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