米大統領選、なぜ「高齢者候補」が好まれるのか

大統領は「キング」であり、選挙は「内戦」である

石川:ちなみに、知識人の中でトランプを支持している人たちのヒーローは、エイブラハム・リンカンだと言われています。ちょっと意外だと思うかもしれませんが、つまりユニオンへの姿勢ゆえなのでしょう。ユニオンのためにベテラン政治家の「無効宣言」的なものをたたき潰す、という歴史的使命が不思議なほどフェデラリスツと共通していたということですね。

それから「政党再編」という言葉がかつてのアメリカ政治史の授業では説かれていました。例えばフェデラリスツとリパブリカンズの時代が「第1政党制」。それが終わり、リパブリカンズ1党体制になった時代が「第2政党制」。共和党ができたのが「第3政党制」といった言い方をします。

おそらく近年の若手研究者は、あまり意味のない分類だとして簡単に言及するにとどめる傾向があるという印象を私は持っています。政治学における統計分析の手法に従えば、「政党再編」で分類してもとくに何かを語ることができるわけではないという判断だと思います。しかし私のような歴史的考察をする人間にとっては、まだ有効性のある分類方法なのです。

2016年に「政党再編」があった⁉

トランプが共和党予備選挙を勝ち抜き、本選挙でもヒラリー・クリントンを破って大統領に当選した際、多くの筋のいい理論家が一貫して予測を誤りました。あらゆる統計がトランプは共和党では主流派ではありえないというエビデンスを示していたからです。政党再編論はこの点、極めていい加減なところがありまして、要するにある大統領選挙で突然、政党支持傾向がドラスティックに変わることを「政党再編」といいます。これは歴史的に確認できるのです。

もともと奴隷農園プランターの政党だった民主党の支持者がある大統領選挙でドラスティックに都市の貧困層になる。日本人の多くが認識すらしていないかもしれませんが、民主党も共和党も日本の政党組織における中央執行機関がないのです。やや極論になりますが、アメリカの政党とは、大統領選挙に向けて各地方、各地域のボランティア組織が集結していって最終的に2つに分かれる、というダイナミズムで進むもので、いわゆる政党公認という概念そのものがない。予備選挙で勝ってしまえば、それが共和党候補であり民主党候補だということです。

2016年にドナルド・トランプが共和党の大統領候補になったことそれ自体を政党再編というふうにみることは可能だろうと思います。1970年代以降から、それまで民主党を支持していたインテリ層が共和党を支持するようになってきました。アメリカの新保守主義者が次第に1つの集団として形成されてきました。

それとはまた別の水脈から宗教右派の政党支持が共和党に固定されてきました。その大きな流れの延長に何があったのかということです。まさかトランプがそこにいることになるとは、私も想像していませんでしたが、中東での挫折、金融危機、オバマ政権への失望という事例をつないでいくと、共和党もまた冷戦期に形成された共和党でい続けられるわけがなかったのです。

1970年代から80年代の白人中間層の不安感は、保守レジームというかたちになり、いわゆるリベラルな主張は減退していきました。つまりそれ以降、なんらかの意味で「これがアメリカなんだ」と言えないと、大統領にはなれない流れとなっています。

最近の例では、バーニー・サンダースのように社会主義者であると主張する人物が出てきてそれなりに大きな支持を得ています。おそらくこれは長期的な傾向となるでしょう。こうなると民主党もこれまでの民主党ではありえなくなります。

あるいはトランプが今後の政党再編の引き金を引いたと見ることも可能でしょう。いずれにせよ、民主党にしろ、共和党にしろ、その性格は固定的なものではなく、多元的なアメリカの無数の水脈から微かな変容を続けており、それがある年の大統領選挙で突然、見知らぬ相貌を示すことはこれまでの歴史に確かに何度かあったのです。

佐々木:「社会主義化するアメリカ」は、少し前まではまったく想像できないものでした。

石川:いま出てきている社会主義的勢力は、かつて資本論を読んでいた世代のマルクス・レーニン主義者ではないはずで、いわゆるコミュニティー重視の政治という意味での社会の志向でしょう。強固に個人主義的なアメリカはもともと社会が希薄なんですが、まったくないというわけではありませんでした。

それがここ20年のグローバル化の加速によって、壊滅的に失われたと考えられます。ですから、アメリカの文脈における「社会主義」とは、おそらく社会を取り戻すという文脈からでたものだと思われます。これも、ひょっとしたら、「植民地時代の原風景」という言い方で正当化され、受け入れられるかもしれません。

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