米大統領選、なぜ「高齢者候補」が好まれるのか 大統領は「キング」であり、選挙は「内戦」である

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佐々木:最後に、アメリカ政治史を専門とする先生の目から見て、今回の大統領選はどのようなところに注目されていますか。

石川:インタビューを受けている現段階では、選挙分析家の示す数字はバイデンの勝利を示しています。現代のポリティカル・サイエンスの精度は極めて高く、選挙研究者はその優れた頭脳と勤勉な調査によって、誠実に数字とエビデンスを提示しています。しかし彼らは明言しません。だから当然私のような歴史家が明言できるわけがありません。ただし、これは重要なことなのですが、どちらが勝つにせよ、選挙分析家の分析は決して古びない史料になるということです。

「歴史は繰り返さないが韻を踏む」

カート・アンダーセンが『ファンタジーランド』という著作の中で、マーク・トウェインの言葉を引いて「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉を紹介しています。

『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

よく通俗的に「歴史は繰り返す」といいます。しかしそれに対して、厳密性を重視する歴史学者などは「実際は歴史というのは1回限りのもので、置かれた社会情勢や事情が全部違うので、繰り返すことはない」と論駁します。

まったくそのとおりなのですが、現象には必ずそれを引き起こしたバックボーンとなる構造があり、その構造が似ていれば、異なる相貌で似た現象が起こるはずなのです。それが「歴史は繰り返さないが韻を踏む」の意味です。先進国の中では際立って国民の平均年齢が若く、かつ膨大な移民によって人種構成までが変化しているアメリカですが、そうであるがゆえに、アメリカの政治構造は反省の対象ではなく、適応の対象になるのです。バックボーンとなる構造は、依然として強固なのです。

今回の大統領選挙で私が注目するのは、「次の大統領選挙にどのような韻律を残すのか」です。今回は、2人の高齢男性が共和党と民主党の正大統領候補になりました。私は高齢者候補どうしの激突には、重要な意義があると考えています。それは長い期間をかけて何らかの意味で第2次世界大戦後のアメリカ人を体現した者どうしの戦いだからです。その最大の遺物は、それがアメリカ人の次の選択をより明瞭に示す韻律になると考えるからです。

石川 敬史 帝京大学文学部教授

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いしかわ たかふみ / Takafumi Ishikawa

1971 年生まれ。北海道大学大学院法学研究科法学政治学専攻博士課程単位取得退学。博士(法学)。現在、帝京大学文学部史学科教授。アメリカ史、アメリカ政治思想史専攻。著書に『アメリカ連邦政府の思想的基礎――ジョン・アダムズの中央政府論』(渓水社、2008 年)、『岩波講座 政治哲学2 啓蒙・改革・革命』(分担執筆、岩波書店、2014 年)、『教養としての世界史の学び方』(共著、東洋経済新報社、2019年)ほか。

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佐々木 一寿 経済評論家、作家

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ささき かずとし / Kazutoshi Sasaki

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、大手メディアグループの経済系・報道系記者・編集者、ビジネス・スクール研究員/出版局編集委員、民間企業研究所にて経済学、経営学、社会学、心理学、行動科学の研究に従事。著書に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社刊)などがある。

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