「まず失敗せよ」リーダーに必要な2つのこと 「いきなり成功を求める」から、人は育たない

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野中:ナデラは「数値は各自が確認すればいい」とこれをやめさせ、その代わりに、出席者1人ひとりが、これまで歩んできたキャリアや人生観を物語り、共感し合う場にしたそうです。

この「物語る」という行為は、リーダーにとってとても重要です。経営者の個人史を含めた「物語」(ナラティブ)が、企業の戦略を構成すると私は考えています。戦略は「物語」なのですよ。

戦略は「ソープオペラ」。立ち直りが「物語」になる

野中:国際政治学者のローレンス・フリードマンは、戦略は「ソープオペラ」だと言います。「ソープオペラ」とは、平日の昼間にテレビ放映しているメロドラマのことで、石鹸メーカーのP&Gなどがスポンサーだったことからその名がつきました。それは番組が進むにつれて登場人物が入れ替わります。さらに筋書きも変化し、エンディングも決まっていません。

野中郁次郎(のなか いくじろう)/一橋大学名誉教授。1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D.取得。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学各教授を歴任。日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威。主な著作に『知識創造企業』『失敗の本質』などがある(撮影:梅谷秀司)

遠藤:企業の戦略も確かにそうですね。

野中:そうです。最初に理論ありきとか、市場の構造から自然に導き出されたりするものではないということです。現実のただ中で、刻々と移り変わる状況を勘案しながら、リーダーが絶えず考え抜き、その時点でベストあるいはベターと思う施策をやり続ける。おかしな兆候が表れたら、迷わず修正していく。それが戦略です。

遠藤:戦略が「物語」だとして、「失敗経験」を積極的に積ませるナデラがすごいのは、そこからの立ち直りが「物語」になるからだと思います。失敗し、そこから立ち上がって成功をつかむというのが「物語」としては最も美しい。多くの共感も生むことができる。「まず失敗せよ」というのはすばらしいメッセージです。

それに対し、最近の日本の経営者は違います。いきなり「成功」を求めてしまう。リーダーとして「失敗せよ」とはなかなか言いにくいのでしょう。どうすればいいでしょうか。

野中:つい最近、政治家と経営者のリーダーシップに、どんな共通項や差異があるかを探ろうと、政治学者の北岡伸一さんと、シリーズで対談をしています。

毎回2人ずつ取り上げることになり、初回は私が渋沢栄一と益田孝、北岡さんが大久保利通と伊藤博文です。戦前のことは詳しくはなかったので、にわか勉強をして、ずいぶん昔には読んだのですが、渋沢栄一の『論語と算盤』を改めて手に取ったのです。

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