表面的な数字ばかり追う会社の致命的な欠点 顧客視点の「何のためにやるのか」が肝要だ

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野中郁次郎氏(左)と田村潤氏(写真:『Voice』編集部提供)
2017年は神戸製鋼の鋼材性能データ偽装や日産自動車の無資格検査員問題など、大企業製造業の不祥事が相次いだ。日本企業のガバナンス力の欠如、強い組織を構築する「現場力」の低下が指摘されている。
これは長らく日本企業が抱えてきた問題に起因するのか。一橋大学名誉教授で「知識創造経営」の生みの親としても名高い経営学者の野中郁次郎氏と元キリンビール副社長、『キリンビール高知支店の奇跡』(講談社+α新書)の著者でアサヒビールからトップシェアを奪還した田村潤氏。2人が総合論壇誌『Voice』2017年3月号(PHP研究所)で対談した内容を一部加筆修正して抜粋。日本的経営の問題点を考える。

「最後の一人になっても闘い抜く」

野中 郁次郎(以下、野中):田村さんが45歳で支店長として赴任し、最下位ランクだった高知支店の業績を反転させる軌跡を描いた『キリンビール高知支店の奇跡』を私もたいへん興味深く拝読しました。

田村 潤(以下、田村):ありがとうございます。ローカルな高知の話で、無名の著者が営業のセオリーを記しただけなのですが、予想外の反響がありました。

野中:当たり前のことを成し遂げるのが、最も難しいんです。多くの読者が本書に共感を示した背景には、日本企業全体が共通の問題意識を抱えていることがある、と考えられます。その問題を一言でいえば、アメリカ型の経営モデルを次々と導入したことへの反動として、「日本的経営は本当に時代遅れで陳腐化したのか」という疑問です。

ホンダの創業者・本田宗一郎さんは、「つくって喜び、売って喜び、買って喜ぶ」という「3つの喜び」をモットーとして掲げました。しかし、ここではアメリカ的経営で語られる株主については触れられていません。3つの喜びを達成すれば、結果的には利益が生まれ、株主も喜びを享受できますが、事後的なものにすぎない。本田さんの言葉は、企業は株主のために存在しているのではないことを如実に示しています。

ホンダに限らず、日本企業は本来、「世のため、人のため」という利他の目的を達成するために存在していたはずです。しかし近年のROE(株主資本利益率)やPER(株価収益率)重視の近視眼的思考に陥りやすい四半期決算の導入により、数値目標が企業の目的にすり替わっている傾向があります。そこでは企業の持つ永続性や社員の「生き方」は不問とされていく。

しかし、数値自体に会計以外の意味はありません。同時に「何のために働くのか」「会社の存在意義とは何か」という、主観的価値観を含んだ生き方を問うものでもありません。京セラ名誉会長の稲盛和夫さんの経営哲学である、「売り上げ最大、経費最小」そうすれば利益はついてくるという考え方は、数値至上主義の発想ではなく、働く社員が具体的に行動に移そうと思えるスローガンです。現場に「ROE8%」という目標を与えても、本社の意図は伝わりにくく、高揚感も生まれません。

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