「新型コロナは制御可能」が今夏の経験の結論だ 大阪大・大竹氏「的を絞った対策で乗り切れる」

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――政府は、感染症法における「指定感染症」の運用ルール変更も検討しています。

実現すれば、一般のクリニックでもコロナに対処するという形になるかもしれない。したがって、クリニックなどが感染症対策の設備投資を行う意義は一段と高まる。さらに現在の運用ルールによって、行政によるPCR検査は無料だが、保健所を通さないとできない形になっている。このことが、PCR検査体制が拡大しにくい原因になっている可能性があるため、運用ルールを変更すべきだろう。

また、陽性者の多くは、軽症か無症状だ。見つかった患者の30%程度は無症状といわれ、見つかっていない感染者も相当数いるはずだ。こうしたことも、新型コロナの指定感染症の運用を始めた頃には想定していなかった。そのため、無症状者でも入院措置の対象になってしまったが、コロナの病態に合わせた規制に変えていく必要がある。

――コロナ対策が巨額になったため、財政負担も大きく膨らんでいます。どのように考え方を整理すべきでしょうか。

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人々の行動変容(好み)によって消費が変わり、それによって不況になるところが出たとしても、それは消費者の好みが元に戻らないと回復しない。人々がコロナのリスクを気にしなくなり、移動や人との接触をしたいと思うところまで行かなければ、政府が景気刺激策をやってもあまり効果はないと、多くの経済学者は考えている。

一方で、コロナ禍によってマイナスのショックを受けた人とそうでない人がいる。後者から前者へお金を流す所得再分配は必要だ。それには、税金を通じて行うか、あるいはいったん国債発行で資金調達してコロナ終息後に増税をするかという2つの方法がある。MMT(現代貨幣理論)派の人たちは「増税しなくていい」と言うが、財政赤字が「打ち出の小槌」としていつまでも続くならいい。しかし、政策を決めるときには、そうでない可能性も考慮すべきだ。

接触確認アプリの普及にも工夫の余地あり

――国内旅行の旅費を補助する「Go To キャンペーン」には国民からの批判もありました。

実施する頃にはウイルスは終息しているという前提だったが、時間軸が違った。そんな簡単には終息しないという前提に立てば、景気刺激より、むしろ事業者向け予防ガイドラインを普及させるきっかけを作ることがより大事だ。たとえば、専門家も「旅行をするだけでは感染しない」と言っている。であれば、Go To キャンペーンは「新しい様式に基づいた旅行」を提示して広める機会にもできたはずだ。現状は明らかに準備不足だ。同様に、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」においても、イベント参加にはインストールを条件とするなど利用の拡大に工夫の余地はあると思う。

――2021年以降の接種開始が期待されるワクチンですが、費用の自己負担を無料とする政府案などが取り沙汰されています。

最も大きなワクチンの効果が重症化抑制だとすれば、国民全員が慌ててワクチンを接種する必要はない。重症化リスクの高い人たちを優先すべきだ。新型コロナは、ワクチンによる集団免疫を目指さなくても制御可能かもしれない。政府やメディアが、我先に接種したいという人々の期待を膨らませるのはよくないだろう。一方で、感染予防効果をもつワクチンが開発された場合は、集団免疫を目指すために接種率を高める取り組みが重要になる。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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