――その後、感染は急拡大し、春に第1波を形成しました。次の7月以降の感染拡大については、どう見ていますか。
今回は、専門家と国民の認識ギャップが逆になった。検査態勢が充実したことにより、若者を中心に陽性者が増えたが、春の第1波でももっと検査を実施していれば、より多くの感染者が見つかっていただろう。7月後半からは中高年の陽性者も増え始めたが、いずれにしろ、感染は収束し始め、重症者も春に比べてさほど増えなかった。院内感染や高齢者施設での対策や検査態勢が拡充され、早めに対応できるようになったことが奏功したためだ。今夏の経験により、「新型コロナはある程度制御できるようになった」と、大方の専門家は認識している。
今後は国民の認識も変わるだろう
これに対して、一般の人々は「感染が増えている」と連日ニュースで聞かされ、「コロナはどこにいても、普通に生活していても感染してしまうのか」と危機感を高めてしまった。これは、春とは逆方向の認識ギャップだ。もっとも、夏の再拡大では重症者の少なさが明確になったため、これからは国民の認識も変わってくると思う。
――予防対策の有効性もわかってきたということですね。
「夜の街」やカラオケなど感染リスクの高いところを避けるようにすれば、かなり防げるというのが専門家の認識だ。また、高リスクのところでも、予防のガイドラインを守っている事業者では、クラスター(感染者集団)はほとんど起きていないのも事実だ。
最近の研究では、AI(人工知能)などを活用した気流シミュレーションや感染者数シミュレーションも盛んになっている。アクリル板は何センチメートルまで高くすれば飛沫の拡散防止効果が高いとか、湿度を高くするとあまり飛沫が飛び散らないといった知見が報告されている。2月の流行初期にクラスターを発生させたスポーツジムではその後、感染が起きなくなった。これも対策がしっかりしたことが要因と考えられている。
残念なのは、対策がうまくいき、クラスターを起こしていないところをメディアが積極的に報道しないことだ。スポーツジムの成功例はもっと取り上げていい。分科会の発表資料でも「電車に乗ってもコロナはうつらない」というメッセージを夏から出し始め、大規模イベントでも屋外なら感染リスクは低いこともわかってきている。こうした科学的なファクトが伝わっていけば、人々の新型コロナへの見方もよい方向に収斂されていくだろう。
一方で、新型コロナの流行を制御するため、いつまでも国民の自主的な行動変容に頼っているのにも限界がある。国や地方自治体は、店舗などの対策とその効果について個別事例の情報を収集し、事業者向け予防ガイドラインをより精緻化していくべきだ。そうすれば、国民1人1人は特に気をつけなくても、世の中全体で感染対策が機能するような状況を作っていくことができるだろう。
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