アベノマスクで露呈「無策でもやる」日本の悪癖 「何かせねば精神」が日本人を窮地に追いやる
安倍首相ら官邸は、以上のような検討をしたのでしょうか。もし、大した検討をせず、経済産業省のアイデアに条件反射で飛びついたなら、現状認識と政策決定のプロセスに重大な欠陥があったと言えます。
このように、コロナ禍を受けて「とにかく何か手を打たねば」「何もしないわけにはいかない」という強迫観念が蔓延し、企業で、行政で、また家庭で、無意味なコロナ対策が大々的に行われています。無意味なだけならまだしも、アベノマスクや炎天下でのマスク着用のように、逆効果になっている対策も目立ちます。
「消費税減税」で景気回復するのか?
今後の対策で注目されるのが、消費税減税です。4月に自民党の議員連盟「日本の未来を考える勉強会」が消費税減税を求める提言を発表しました。野党でも国民民主党・玉木雄一郎代表が消費税減税を主張しています。一方、政府の菅義偉官房長官は7月に、自民党税制調査会の甘利明会長は8月に減税を否定しています。
政局がらみで議論されることが多い消費税減税。「消費税減税で消費を盛り上げ、経済を復活させよう。ドイツもイギリスもやっているぞ」という主張は明快ですが、本当に消費税減税で消費は盛り上がるのでしょうか。
健全財政のドイツやイギリスと違って、日本では国の借金が約1100兆円に達し、財政は火の車。いくら一部の政治家・専門家から「日本が財政破綻することはないんだから、借金なんて気にするな」と言われても、国民は気になってしまいます。
現実に2011年の東日本大震災のあと復興税が導入され、今も続いていることから、国民はコロナ後にも同じような増税があるのではと身構えています。この状況で消費税を減税しても、国民は消費拡大よりも貯蓄や借金返済など生活防衛を優先してもおかしくありません。
ちなみに1人10万円の定額給付金は、消費支出の増大に寄与していません。総務省統計局「家計調査報告」によると、4~6月の総世帯の実収入は前年同期比+7.9%と定額給付金の支給で大幅に増加したのに、消費支出は逆に▲11.0%と大幅に減少しています。
もし消費税減税に踏み切れば、消費が盛り上がらず、税収は確実に減少し、財政赤字が拡大します。すると、国民は将来のさらなる大増税を予感し、生活防衛への意識を強めてしまいます。結局、長い目で見ると、消費税減税は消費を増やすよりも消費マインドを委縮させてしまう可能性があるのです。
残念ながら、減税賛成派は「不況時の減税は世界の常識だ」、反対派は「消費税は社会保障の財源だ」と主張するだけで、客観的な現状認識に基づいた政策論議になっていません。
1月以降、国・自治体・企業などが取り組んできたコロナ対策は、効果があったもの、なかったもの、さまざまでした。ただ全体としては、効果があったものも含めて、現状認識が不十分なまま「とりあえず」「何かやらねば」と着手し、その効果が十分に検証されないうちに次の対策が打ち出される、というケースが目立ちます。
まだまだ続くコロナとの戦い。今こそ、客観的な現状認識と合理的な思考を取り戻したいものです。
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