現在、スウェーデンの地方自治制度では、基礎自治体である「コミューン」が介護や保育などの福祉、学校教育を担い、都道府県にあたる「レジオン」が医療を担当している。中央政府の命令で地方自治体の自治が制限されることはない。
加えて、スウェーデンの国民はほとんどが共稼ぎである。強制休校措置はただちに病院を含めさまざまな職場に影響し、社会的混乱を招く。そうしたことも、全国一斉休校措置がとられなかったことの判断の背景にある。ちなみに、この過程で感染拡大で休校せざるを得なくなった場合に学童保育に子どもを預けられる保護者の職業リストが、国から示されたそうである。
なお、医療分野においては、スウェーデンの病院は私立が少なく公立が多い。であるからこそ、公立病院は採算をあまり気にせずにコロナ対応に集中できる側面もあり、地方自治体による自治が尊重されているものの、国全体では病院間の連携がとれているとのことである。
スウェーデンの独自政策に対しては、スウェーデン国内でも批判はある。しかしながら、現時点でも比較的多くの国民の支持の下で、政策は継続できている。なぜなのだろうか。
理由として、第1に、専門家の考えを尊重する憲法上の仕組みがあること、第2に、国民の政府に対する信頼があること、そして第3に、自主性を尊重する国民性が底流にあることが指摘できる。
専門家の意見を尊重する枠組み
第1の点についてだが、スウェーデンでは「公衆衛生庁」と呼ばれる公的機関が新型コロナ対応に当たっている。この組織は、独立性が保証されている専門家集団である。憲法ではこのような公的機関は「中央政府の外」に独立して設置されており、「政府や議会は公的機関の独立性を尊重し、介入してはならない」とされている。この規定を政府や政治家が忠実に守っている。したがって、公衆衛生庁に勤務する専門家が推薦する政策がスウェーデンではそのまま実現される。
この政策を指揮した疫学者の1人であるテグネル氏は、新型コロナが長期間にわたるものであること、そして、収束するまでの期間、国民が耐えうる政策を取るべきだということを、繰り返し国民に説明してきたという。
実際、6月のブルームバーグのインタビューでも、「感染症は長期的に続くものであり、一時的にロックダウンをしても感染再拡大は防げないし、副作用もある」と話している。こうした専門家の考え方が尊重される土壌がスウェーデンにはあることを指摘しておきたい。
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