「自由」を危機にさらす「全員PCR検査論」の罠 「誰のためのPCR検査なのか」冷静に考えたい

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限りある医療資源。PCR検査も治療と医療従事者優先で(写真:ロイター/Issei Kato)

5月12日に東洋経済オンライン掲載された西村秀一医師へのインタビュー記事『「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題』から筆者は多くを学んだ。そこでは、PCR検査における渋滞ともいえる現象が、検査体制の入り口部分ではなく実際の検査を行う地域の衛生研究所などで深刻だと述べられていたからだ。

検体を積み上げれば待ち時間が長大に

列車の切符売り場のようなサービス窓口にランダムにサービス請求が殺到したときに発生する問題を、統計学では「待ち行列問題」という。こうしたときに生まれるサービス待ち行列の長さの平均値は、サービス請求頻度が窓口能力の一定割合を上回るとどんどん大きくなっていく。窓口能力がつねに100%稼働の状況を保つよう「効率的」にシステム設計をすると、待ち行列は絶望的なほどに長大化することが知られている。

PCR検査が検体採取という「前方」と、送られてきた検体を実際に検査する「後方」とに分かれているかぎり、ドライブスルー検査などの前方における体制を整備することが、検査機関などの後方における大渋滞を惹き起こす可能性が無視できないこと、少なくとも無視できない状況にあったことを、私たちは認識すべきだろう。

待ち行列の理論からすれば、ランダムどころかクラスター的なサービスの一斉請求が発生しやすい感染症検査においては、「検査件数を増やしていくこと」と「迅速に検査に応じてもらえること」との間に深刻なトレードオフがありうるのだ。

状況を変えるための決定的な手段は迅速な検査結果の取得を可能にする検査キットや試薬の大量供給だ。また、検体採取と結果判定とを一体化する仕組みが運用可能になれば、検査における前方と後方の別がなくなり、過剰な検査需要は患者の容態を見て触って確かめる医師自身によって制御されるので、待ち行列問題は相当に改善されるだろう。

だが、それを待望することと現実を直視することは違う。感染拡大期の3月や4月の段階で、希望者全員にPCR検査などということをしたら、おそらくは検査業務の大渋滞を惹き起こしただろう。その状況は今でも大きくは変わっていないことを西村医師はインタビューで指摘している。

ではどうしたらよいか。筆者は、検査のための資源に制約がある現状では、限りある検査能力は医療従事者や介護施設職員などに最優先で振り向けるべきと思っている。

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