「自由」を危機にさらす「全員PCR検査論」の罠

「誰のためのPCR検査なのか」冷静に考えたい

米国などにおける最近の観察結果によれば、PCR検査は発症の1週間前くらいから感染を検知し始める一方、ウィルスが感染性を持ち始めるのは発症の2日前くらいからとされているようだ。

それなら、医療従事者や介護施設職員は症状の有無にかかわらず3日あるいは4日間隔で検査を受け、かつ検査結果を当日中にでも入手できるようにすれば、彼らが心ならずも感染を拡大する事態、いわゆる院内感染や施設内感染を相当程度まで封じ込めることができるはずだ。3日あるいは4日というのは検査特性から導かれる理論値である。大事なことは、彼らに可能な限り頻繁に検査を受けてもらうことである。

ここで確認したいことは、医療従事者に優先的に検査資源を振り向けることは、日本の医療を崩壊から守るためだということである。良心的で自身に厳しい医療従事者ほど、感染の不安を訴える患者に接すれば、「私は後でよいからあなたの検査を優先しましょう」という優しい心を持ちがちだろう。だが、それは違うのだ。医療従事者が心掛けるべきことは、何よりも自身を感染の危険から守ることであり、また、自身の感染の可能性を迅速に知り対処することである。

私たちが医療従事者にすべきことは、「何としてもあなた自身を守ってください」と伝えることで、拍手やライトアップで彼らを感動させ現場に送り出すことではない。

「アベノマスク」より有効なお金の使いみち

もちろん、他にも考えるべきことはある。このウィルスが強い感染性を持つのは発症後8日間程度までらしく、米国のCDC(疾病予防管理センター)はこれを根拠に罹患者の復職基準を発症後10日としているようだ。一方、これと普通のPCR検査では発症から数週間にわたって陽性になるとの報告(注)を考えあわせると 、症状がなくなった患者を退院させホテルなどの経過観察可能な施設に誘導するなどの対応は、もっと積極化してもよさそうだ。

通称「アベノマスク」の全戸配布に政府は400億円あまりもの国費を投入すると報道されているが、400億円といえばビジネスホテルなら400万室、高級ホテルでも200万室分の宿泊費用である。限りある国家予算の使い道はもっと工夫すべきである。

(注)PCR検査にはいくつかの方式があるが、鼻咽頭から検体を採取するタイプの検査が最も一般的らしい。各々の検査の特性はThe Journal of the American Medical Association(JAMA、「米国医師会雑誌」)のこちらのページで確認できる。

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