日本人の現金・対面主義がどうにも抜けない訳 感染リスクの回避が大した追い風にもならず

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2020年3月における決済件数は、2019年夏以降の水準に比べるとかなり落ち込み、対前年同月比は、わずか0.3%でした。

決済金額の対前年同月比は4.7%になったものの、決済金額は、それまでの値に比べて格別増えたわけではありません。

なお、マネーの総量は、3月にはかなり増加しています。したがって、マネー全体の中での電子マネーの比率は、かなり低下したことになります。

日本で電子マネーの利用が増えない理由として、次の2つを挙げることができます。

第1は、決済事業者がそれぞれ独自のQRコード規格を使っているため、使いにくいことです。

総務省は今年度から統一規格「JPQR」を本格導入する予定です。しかし、最大手のPayPayは、利用者を囲い込むため、専用のQRコードを使う店舗は手数料を原則無料にする一方で、JPQRに乗り換える店舗からは1.99%の手数料を取る方針です。これでは、事態は改善されないでしょう。

第2は、商店側から見ると、手数料が高すぎることです。

日本では、店舗が決済事業者に支払う手数料はかなり高くなっています。5%以上の場合もあるといわれますが、日本の小売業の売上高営業利益率は3%程度ですので、これでは手数料で営業利益が消えてしまいます。

経産省は、還元制度の間、手数料率を決済金額の3.25%以下に抑えるよう決済事業者に要請し、さらに手数料の3分の1を補助してきました。これによって利用が進んだ面があると考えられますが、この制度は、6月末に終わります。そうなると、手数料を元に戻す決済事業者も多く、その結果、やめる商店が多いのではないかといわれます。

ポイント還元策のような一時的な施策ではなく、手数料の根本の構造を変えていく政策が必要なのではないでしょうか。

日本は絶好のチャンスを取り逃しつつある

以上をまとめると、ネットショッピングにしてもキャッシュレスにしても、「消費者は使いたいと思っているにもかかわらず、供給側でそれに対応できない」という面が強いのではないかと思います。

前回、在宅勤務について、「日本では、従業員は望んでいるにもかかわらず、企業が認めない」と述べました。

ネットショッピングやキャッシュレスの状況も、同じようなものだといえそうです。

こうした変革は、コロナがなくとも、日本の生産性向上のために進めるべきものです。たまたまコロナという異常事が、変革の必要性をはっきりした形で示しただけです。

ですから、日本企業は、本来であれば、この機会を捉えて改革を進めるべきです。

日本企業は、コロナという禍を転じて福となす千載一遇のチャンスを逃しつつあるように思えてなりません。

それによって、日本は世界の潮流からさらに立ち後れていくことになります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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