居酒屋チェーンの鳥貴族を例にとるとわかりやすい。
少し古くなるが、2018年前半の鳥貴族の全店売上高は前年同月比110%台と力強く成長したが、既存店売上高は前年を下回る状態が続いた。同社は2018年7月期(2017年8月〜2018年7月)の1年間で店舗数を567から665へと100近く拡大。だが、急速な出店増に顧客の新規獲得が追いつかず、自社の既存店と新店で顧客を食い合ってしまった。その結果、翌2019年7月期の営業利益は、前期比マイナス29.2%の大幅減益となった。
そこで鳥貴族は新規出店を凍結。「2021年に1000店舗」としていた中期経営計画も取り下げ、不採算店を次々と閉鎖するなど、既存店の回復に全力を傾けている。その結果、出店がないので全店売上高は伸び悩むものの、足元の既存店売上高は上向きつつあった。
既存店売上高は外食だけでなく、スーパーやアパレルなど、小売業全般にとって重要な指標だ。
居酒屋の巧みなミックス手法
次に注目すべきキーワードは、FLコストだ。
食材費など原価(Food)と人件費(Labor)の合計で、外食業界では、売上高に占めるFLコストの比率は6割程度が一般的とされている。各社の戦略や業態によって、“F”と“L”の比率は異なる。
「298円均一」居酒屋の鳥貴族は、看板商品の焼き鳥や原価の安いハイボール、ポテトフライだけでなく、原価の高いビールや釜飯もすべて同価格となっている。これは「マージンミックス」と呼ばれる手法で、メニューの中に原価の高い商品と低い商品を交ぜ、低いものを多く注文させることで全体の原価率をコントロールしている。同社の売上高原価率は30%で、ファミリーレストランのサイゼリヤや回転ずしのくら寿司よりも低い。
その反面、売上高人件費率は34%と、比較的高い。肉を串に刺す「串打ち」を店内で行うため、人手がかかることが主因だ。そこで鳥貴族は、ビルの1階よりも家賃が安い空中階(2階以上)や地下への出店を軸にするほか、広告やクーポンなどの販売促進費も抑制をはかっている。その結果、儲ける力を示す売上高営業利益率は業界平均と同程度の5%を確保している。
一方、業界の優等生は、ステーキ・ハンバーグ店を郊外で展開するブロンコビリーだ。売上高原価率は27%、人件費率は24%で、合計のFLコスト比率は51%と低い。営業利益率は10%台と、屈指の高水準を誇る。
ブロンコビリーは、同社にとって最も重要な食材である牛肉を塊で仕入れ、自社工場でカットする。
塊のうち軟らかい部分はステーキ、硬い部分はカットステーキやハンバーグ、それでも使い切れない部分はミンチにしてサラダバーのソースに用いるなど、余すところなく使うことで仕入れコストを抑制する。
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