新型コロナウイルスの流行を機に、休業した保育士の不当な賃金カットが横行した。その問題を筆者が報じて以降、マスコミ各社も報じ、国会でも取り上げられて大波紋を呼んでいる。
国はコロナが流行し始めた2月の段階から何度も、コロナの影響を受けても公費から出される運営費用の「委託費」は減らさず支給することを伝え、事業者に人件費も”満額支給”するよう求め続けてきた。
にもかかわらず、知らん顔で賃金を適切に払おうとしない事業者もいる。それを指導しない市区町村もある。現場の不満は高まり、保育士たちが声をあげ始めた。6月17日、国はついに、この事態を是正するよう強いトーンで通知を出すに至った。
この問題の根底には、前回の記事「公然と消える『保育士給与』ありえないカラクリ」(6月17日)でも詳報したように、人件費を他の費目に流用できる「委託費の弾力運用」という規制緩和の流れがある。そしてコロナで失職し、家まで失った保育士がいる。これが弾力運用の顛末で、保育崩壊の足音が聞こえてくるようだ。いったい、保育の現場で今、何が起こっているのか。
5月に仕事も家も追われた、30代保育士
「コロナで仕事も、住む家も失った」
保育士の水月晴子さん(仮名、30代)は、これから保育士としてまた働いていけるのかと、途方に暮れている。保育士歴が約10年の晴子さん。最初に就職した先は、低賃金、長時間労働などが横行する保育園で、やむなく退職。
一人暮らしする都内のマンションから通える範囲で保育園を探して、3年ほど前から別の保育園運営会社に正社員として入社して働いてきたが、詳しくは後述するように、またもやブラック保育園だった。そして、新型コロナウイルスの渦中で、退職を迫られたのだった。
”事件”は、4月に入ってすぐに起こった。職場近くにある系列の園で、保育士が肺炎で入院した。当初コロナかどうか分からなかったが、現場の保育士たちは動揺した。園長や保育士が互いの職場を頻繁に行き来しており、入院した保育士と接触のある保育士もいたため、ウイルスが運ばれる可能性はゼロでない。4月7日の緊急事態宣言の発令前だったため、登園する園児も多かった。
副主任を務める晴子さんはすぐに同僚と相談し、「系列園で肺炎で入院した保育士がいるということを、包み隠さず知らせたほうがいい。コロナ感染の可能性があるかもしれないという前提で、登園するか判断してもらうほうがいい」と、状況の公表について本社に強く要望したが「その必要はない」と拒まれた。
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