「家も職も失った」30代保育士が訴える壮絶実態 12時間労働もザラの職場で起きたこと

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晴子さんは、公費で出る家賃補助を受けるために、もともと住んでいたマンションの賃貸契約を会社名義に変更して支給要件を満たす必要があり、マンションが会社名義になっていた。そのため、退職と同時に家を追い出されてしまった。やむなく、引っ越し費用20万円をかけて地方にある実家に戻った。

晴子さんは、「保育士は、子どもの成長を感じながらできる楽しい仕事で、天職だと思っている。でも、ブラック保育園でないところなんて、どこにあるのだろうか。しばらく身の振り方を考えたい」と沈んだ気持ちになっている。

ついに国も本格的に動き出した

これは、委託費の弾力運用が”悪用”された典型的な例だろう。その末路は保育士の退職であり、保育崩壊だ。晴子さんの働いていた会社では、コロナ禍で非正規の保育士の不当な賃金カットも行われ、系列園で働く保育士も声をあげ始めているという。

6月17日、こうした状況を是正するべく、内閣府、文部科学省、厚生労働省が連名で、通知「新型コロナウイルス感染症により保育所等が臨時休園等を行う場合の公定価格等の取扱いについて」を改めて出した。

通知の前段には「公定価格等の支給を通常どおり受けているにもかかわらず職員に対する賃金を減額して支払う事案がある旨、報道や国会における議論のなかでご指摘をいただいた」と書かれ、厳しく対応する、強いトーンになっている。

まず、委託費(運営費)の単価を示している「公定価格」について。これまでも国は何度も事務連絡などを通して自治体に対して伝え、内容をホームページでも公表してきているが、改めて、保育園が臨時休園などを行った場合でも保育の体制を維持できるようにしていることを明記した。

コロナに感染した場合や、濃厚接触者となったことに伴って出勤できない、登園自粛の要請を受けて縮小保育となるなどのコロナによる影響があっても、通常の状態に基づいて、園の収入になる加算や減算も含めて公定価格が算定されることを前置きしながら、筆者も指摘してきた不払い問題に寄り添った形で通知を出している。

大波紋を呼んだのが、休園や縮小保育によって休業した場合の保育士の人件費だ。通知では、保育園の収入が通常と変わらないことを踏まえて、労働関係法令を順守したうえで人件費の支出も適切な対応が求められると前置きし、「この場合の『適切な対応』」とは何かを説明。賃金カットで多く見られた「賃金6割補償」についても踏み込んでいる。

「労働基準法に基づく休業手当として平均賃金の6割を支払うことに止まるものではなく、休ませた職員についても通常通りの賃金や賞与などを支払い、通常時と同水準とする対応が求められる」

つまり、賃金6割補償では不十分だということだ。一般的に行われる労基法に基づいた休業補償であれば平均賃金の6割以上でいいが、保育園の場合は公定価格が通常どおり支給されるため、仮に6割だけ支払うと人件費分に差額が生じてしまう。

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