次に、処遇改善加算②の流用も考えられる。おおよそ経験7年以上で副主任クラスになると、キャリアに応じた「処遇改善加算②」がついて1人当たり最大で月4万円がつく。これら処遇改善費は園に入ってから、個々の保育士に配分されていく。
この処遇改善加算②を得るための手続きとして、対象となる保育士に園側が発令・職務命令を行う必要がある。年度途中に発令が行われた場合でも、4月からその発令に相当する業務を行っていることが確認できる場合、4月からの加算分が出ることになっている。
晴子さんに実際に副主任手当の4万円がついたのは10月からで、4~9月分は支給されていない。会社側は4月から晴子さんの処遇改善加算分を得ているのに、半年分がどこかに消えている。
家賃補助含め600万の収入になるはずが…
処遇改善加算②も必ず人件費に回すよう使途制限があるが、本人ではない、園内の同等のキャリアのある他の保育士にも一定の割合で配分してもいいことになっているため、他の保育士に充てられている可能性はある。しかし、晴子さんら保育士には、何の説明もされていなかった。そして、同僚に聞くと、日頃から給与計算にミスも多く、人によってはつくはずの処遇改善加算が支払われていないケースもあったという。
晴子さんに対して公費から出ている人件費、処遇改善費、家賃補助を合わせると年間に総額600万以上になる計算だが、晴子さんの2019年度の年収は額面で約400万円でしかない。この系列園の年間の平均賃金(常勤職員)を調べると、そろって約360万円程度でしかなかった。実際の財務情報を見ても、人件費比率は約50%しかなかった。前回記事でも検証したが、原資を出す国が想定しているのは8割であるにもかかわらずだ。
この保育園は給食調理を外部に業務委託していたが、コスト削減が露骨で、「あまりにまずい給食で、子どもたちに『嫌いでも頑張って食べてみようね』とは言い難かった」と晴子さん。そして保育材料費や保健衛生費で使える費用が極端に少なく、晴子さんの保育園もまた「玩具はほとんど100円ショップ。トイレットペーパーも買えなかった」と嘆く。
晴子さんの保育園では昨年度に次々に保育士が辞めてしまい、代わりの人が入らず、保育士の体制は国が定める配置基準ギリギリになった。週休2日は維持できず、日曜しか休めなくなった。そして1日12時間労働になった。それに加えて、1日2時間はサービス残業だ。
誰がいつ倒れてもおかしくない状況になり、晴子さんは本社に対して「保育の仕事は書類業務とは違う。ミスしてすみませんでしたでは済まない」と抗議したが、人員が増えることはなく、本社から疎まれてしまった。そうした経緯もあり、コロナが引き金となって4~5月の間に晴子さんのほか、同僚2人が同じように辞めていった。
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