「家も職も失った」30代保育士が訴える壮絶実態

12時間労働もザラの職場で起きたこと

それでも晴子さんらは「万が一、子どもがコロナにかかって命を落としてからでは、済まされない」と、しぶる園長を説得。なんとか許可を出してもらい、保護者全員に連絡をした。保護者らは晴子さんに感謝し、なぜ隠そうとしたのか本社に抗議までしてくれたという。翌日、その保育士にコロナの陽性反応が出て、続いて他にも職員の感染が分わかった。

晴子さんは本社に消毒方法など感染予防の指示を仰いだが対応してはくれず、晴子さんがマニュアルを作った。そうしたなか、コロナ感染拡大のパニックに乗じるように、会社側は晴子さんに「4月に予定していた昇給はストップする。処遇改善費も出せないから、待ってほしい」と伝えた。

緊急事態宣言が出たあとも休むことなく出勤したが、実際に支払われた4月の給与は基本給18万9000円だけ。国から出ているはずである保育士のための処遇改善費は一切、支給されなかった。

コロナで保育士の『給与4割カット』は大問題だ」(4月21日)などコロナ禍における保育士への不当な賃金不払いについて取り上げた筆者の一連の記事を読んだ晴子さんは、「園の収入は減っていないはずなのに、なぜだろう」という疑問を抱き、思い切ってメールで園長に問い合わせた。そのメールを見た本社は、晴子さんを呼び出した。

本社を訪ねると晴子さんは7人の幹部に囲まれ「質問するな!ただ、ハイと言っていればいいんだ」「君は問題児だ」「保護者と仲良くするな」「別の保育園に異動させる」などと叱責され、始末書の提出を求められた。その内容と威圧感から、退職勧奨だと悟った。今までも、本社に呼び出されて叱責されて辞めた保育士や園長が後を絶たない状況で、晴子さんも5月末の退職に至った。

出るはずの「経験給」もついていなかった

退職後に冷静になって振り返ると、会社には不審な点が多々あった。入社前、晴子さんは他社で保育士として約6年の経験があったが、「うちの会社では1年目だから、待遇は1年目と同じだ」として前歴が換算されず、多くの園ではつくはずの「経験給」がつかなかった。

それでも入社して3年目の10月、副主任に抜擢されて、国から出る処遇改善費が月4万円もらえることになった。副主任になり手当がついたのは10月だったが、辞令は4月1日に遡って記載されていた。

晴子さんは、「今思えば、給与をごまかされたのではないか」と感じている。以下の理由で、その可能性は高いと筆者は見ている。

まず前歴が認められず「経験給」がつかなかった点は、こう考えられる。

保育士の待遇改善のため、国をあげての処遇改善が始まり、もとある人件費に加えて2013年度から「処遇改善加算①」が、2017年度からは「処遇改善加算②」が保育士につくようになった。「処遇改善加算①」は、常勤・非常勤を問わず全職員が対象になっている。

処遇改善加算①はさらに2種類があり、1つ目はキャリアアップの取り組みに応じた「賃金改善要件分」になる。もう1つは、職員の平均経験年数に応じた「基礎分」となる。処遇改善加算①は、受け取った保育園だけでなく同一法人が展開する別の保育所で働く保育士にも充てることができる。

「処遇改善加算①の基礎分」が、平均経験年数に応じて個々に月3000円から約3万6000円がついていく。会社側は経験6年としての改善費を得ながら、晴子さんに経験1年目だけの処遇改善を支払い、差額をどこかに回しててもおかしくはない。

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