通知の「Q&A」で、「この差額が、各種積み立て金や当期末支払い資金残高といった人件費以外の経費に充てられることは、今般の特例の趣旨にそぐわない。休ませた職員にも通常どおりの賃金や賞与を払い、公定価格に基づく人件費支出と同水準を維持することが求められる」と強調されている。
きめ細かい記述が続く。出勤するのと自宅待機しているのとではリスクに差があり不公平だとする声にも対応し、「原則として、休ませた職員も含め、全ての職員に通常どおりの賃金や賞与を支払うことが望ましい」ことを前提としたうえで、「実際に勤務した職員の手当を増額し、自宅待機した職員の手当を減額するなど、勤務状況に応じて傾斜をつけることは差し支えない」とした。
手当などの減額を考える前に、まず、人件費の積み立てを活用して、通常の賃金の支払いを確保するよう付け加えられている。公定価格以外の収入が減った場合については、雇用調整助成金などを活用して、できる限り通常どおりの賃金を支払うこととしている。あくまで「通常どおり」の賃金を支払うべきなのだ。
さらに、非正規雇用の保育者がしわ寄せを受けたことについても目が向けられている。「常勤・非常勤や正規・非正規といった雇用形態の違いにのみに着目して異なる取扱いを行うことは、適切でない」と通知で断言しているのだ。公立保育園でも、これら通知で示した取扱いを踏まえて、自治体ごとに適切に判断するよう求めている。
すでに賃金カットされた保育士の救済策も示された
さらに注目されるのは、すでに賃金カットされた保育士の救済方法も示されていることだ。今回の通知で示された考え方は、特例を設けた2020年2月から適用されるということ。会計年度が終わった2019年度の賃金や賞与が減額された場合、その減額分について、一時金などで支払うことになると国の考えを明示した。2月、3月に賃金カットが行われていた場合でも、保育士は園に対して、遡って請求できるということだ。
公定価格が保育園で適正に使われているか、国は都道府県、政令指定都市、中核市に適切に指導を行うこととした。指導監査の実施については、市町村の確認指導監査と必要に応じて連携して効率的に実施することが望ましいとしている。
この20年あまり、「委託費の弾力運用」で人件費を他の費目に回すことが容認されてきたなかで、ここまで踏み込んで通知を出した意義は、極めて大きいだろう。
委託費の弾力運用には、そもそも「適正な給与を払うなど一定の基準をクリアして、それでも余るようなら他に弾力的に使って良い」という建前がある。今回、コロナを機に人件費が不当に抑えられる行為が見られたことを国が重く受け止め、厳しく対応した。これは、現場の保育士が声をあげた成果だ。
認可保育園などの運営費用の原資は「税金」と保護者の払う保育料だ。保育のために多額の公金が投入されており、保育園にかかわる当事者以外にも関係のあることだ。
国の通知を受け、自治体のなかには早くもコロナ禍の賃金の実態調査を始めるなど、税金が正しく使われるよう動き始めている。この動きを止めないよう、現場が声をあげ続け、”保育ウエーブ”を勤め先はもちろん、監督責任のある国や自治体にも届ける必要があるだろう。
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