ポストコロナ「世界経済は根本的に変質する」 超監視社会の登場は民主主義にどう影響するか

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ブレグジットも、そのような政治的な状況を背景として理解する必要があります。そもそも、世論調査ではEU離脱がイギリス経済に悪影響を及ぼすと考える人が7割近くいたにもかかわらず、英国民はブレグジットを選択しました。現在は、合理的な判断よりも、感情的な志向性によって有権者が左右される時代なのだろうと思います。

細谷 雄一(ほそや・ゆういち)/1971年、千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現職(写真:本人提供)

コロナ危機は、そのような政治状況のなかで起ったことにより、問題をより複雑にしています。船橋さんが指摘される監視社会の問題についても、感情的に政治選択をすることが常態となるような社会の中では、コロナ危機に直面するなかで、人々が権威主義的なバイオ監視社会を求めるという動きが生じる可能性が拡大するだろうと、私も考えています。

他方、そのような動きへの反発もあるはずです。街中の監視カメラはもともと、犯罪の捜査や抑止という合理的な必要に応じて設置されたものです。同じように、例えば体温のバイオ監視についても、感染を防止するというような合理的必要性が見られます。しかし、権力は、そのように政府が市民を監視できる権限を必ず濫用するはずです。それに対する抵抗はすでに見られており、「ビフォー・コロナ」の台湾や香港で起こっていたことは、まさにそれを示しているのだろうと思います。危機が終息すれば、自由や権利を求める動きも回復するのではないでしょうか。

国家権力と市民との権利の間で適切なバランスを

開発型国家に関連してすでに触れたことですが、ポストコロナの民主主義に求められるのは、国家権力と市民の権利との間で適切なバランスをとることだと思います。つまりこれからの課題は、専門家集団による合理的で効率的な統治と、市民の権利や自由との間のベストミックスを摸索することです。ポピュリズムやナショナリズムが蔓延する世界では、そのような最適なバランスを実現することは簡単ではありません。それに成功した場合には質の高い政治を実行することが可能となり、また持続的な経済成長を確保することができるのだろうと思います。

他方で、それに失敗した国では経済成長が鈍化し、内乱や革命といった深刻な国内社会の混乱に直面する可能性があるかもしれません。

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