ポストコロナ「世界経済は根本的に変質する」 超監視社会の登場は民主主義にどう影響するか

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船橋:「四小龍」モデルという“開発独裁出身の民主主義”が今回、もっともレジリエンス国家だというご指摘は面白いですね。もう1つ、彼らはどこも実存的脅威と背中合わせで国づくりをしてきたという背景があるかもしれませんね。台湾と香港は中国、韓国は北朝鮮、シンガポールはマレーシアからの日々の脅威から自らを守る最重要課題がありますからね。

私は、今回の大不況後の資本主義のあり方を考えるとき、GDP信仰がどうなるのかにも関心があります。

1934年にサイモン・クズネッツ(アメリカの経済・統計学者。1901年ロシア生まれ。1971年ノーベル経済学賞受賞)が『National Income(国民所得)』を著して以降、GDPは国家の経済成長の指標であり、国富と国力の鏡とされてきました。第2次世界大戦はGDPの戦争だったと言われたほどです。そうした20世紀のGDP信仰が根底から揺らぐ分水嶺になるのではないか、と感じます。デフレがさらに構造化するのではないでしょうか。

今回、日本では病院に行く人は半分ほど減っているようです。感染するのが怖いからでしょうが、たぶん、過剰通院、過剰診療、過剰薬漬けの過剰が剥がれたという側面もあるのではないか。コロナ後の非接触型経済社会は、そのように消費の泡とぜい肉を消滅させる効果をもたらすかもしれない。気候変動の挑戦への対応とも似たような挑戦でもある。

GDPという秤は間尺に合わなくなる

細谷さんも指摘されましたが、コロナ危機を機に人々のライフスタイルが変わる。危機の最中に実験されているテレワークや、これまで以上にインターネットを活用するビジネスのあり方などが、ニューノーマルとなる可能性はあります。そのような経済に変容したとき、これまでのGDPという秤は間尺に合わなくなる可能性があると思います。

さらにもう1点、ポストコロナの経済では、官民の境界が曖昧になる可能性もあると思います。ボーイング社が国有化されるとか、各国の航空会社や自動車会社が国有化されるという事態に進展すれば、現在の資本主義は、官民の境界が認識不能なそれこそ“新型“国家資本主義とでも表現せざるをえないような形態に変容する可能性があります。

それからポストコロナの時代には、経済のみならず、社会や民主主義のありようが変容する可能性もあると思います。例えば、これまで当然と受け止められていた国家が国民を守り、国民は国家に庇護されるという関係も変容するかもしれません。

今回の危機対応では、外出自粛であるとかソーシャル・ディスタンシング、他者との接触機会8割減などが求められています。つまり、国が国民を守るのではなく、国民が国を守る当事者となり、1人ひとりの行動選択が国の命運を決めるわけです。このような状況では、これまでの官と民という考え方では適切なオペレーションはできません。国家と市民の関係の新たな社会契約というか新たなパートナーシップの形が求められているのだと思います。

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