ポストコロナ「世界経済は根本的に変質する」 超監視社会の登場は民主主義にどう影響するか

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さらに、今回、不気味な監視社会が突如、目の前にディストピアとして現れたことも衝撃でした。今回の危機では毎日の検温が奨励されています。検温なしにビルにも部屋にも入れない。

船橋 洋一(ふなばし・よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など(写真:本人提供)

中国では感染していないことを証明するグリーンラベルのお墨付きをもらえば、グリーン族だけで外に繰り出して酒盛りし、それをWeChatでひけらかすこともできる。新たなバイオ・システムが社会に持ち込まれようとしています。その先に、ユヴァル・ハラリ(イスラエルの歴史学者。1976年生まれ。世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者)が指摘するような、バイオ監視社会が生まれるかもしれません。

ハラリは、すでに街中に張り巡らせた小型カメラによって人々の行動が監視されているように、人々の体温ばかりか喜怒哀楽の感情まで遠隔で測定できるようになり、例えば、金正恩のスピーチを聞く労働党幹部の感情が測定され、怒りが検出された幹部は、政治生命はおろか物理的生命も失う――というようなディストピアを描いています。そのようコロナ危機後の超監視社会の登場は、民主主義にどのような影響を及ぼすか、を論じましょうか。

ポピュリズムの世界の中で起こったコロナ危機

細谷:ポストコロナの時代の民主主義を展望する前提としてまず、「ビフォー・コロナ」の民主主義社会においてどのような問題が見られたのかをここで整理しておきたいと思います。

冷戦後の30年間でわれわれが見てきたのは、実は「過剰な民主主義」だったのではないでしょうか。イギリスを代表する政治思想研究者のジョン・ダン・ケンブリッジ大学名誉教授は、「今日民主主義の名によって止めどなく正当化される諸々の主張は過剰で、明らかに有害であり、その害を食い止めるには、民主主義を等身大に理解するしか方法はない」と述べています。

これは、ポピュリズムにも見られる過剰な民主主義の弊害を考える際に、重要な示唆となります。ナショナリズムの膨張や、経済のグローバリゼーションの進展への反発、格差の拡大への怒りなど、さまざまな要因が重なり非常に感情に動かされやすいような政治状況が出現しました。世界のさまざまな国で、合理的で中庸な政策を求める指導者が批判されて、むしろ人々の感情を刺激してそれを扇動するようなポピュリスト的な指導者が好まれる傾向が見られます。

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