ポストコロナ「世界経済は根本的に変質する」 超監視社会の登場は民主主義にどう影響するか

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それに、どこに世界経済を引っ張るエンジンがあるのか不明です。アメリカの企業は少し前まで借金して自己株買いをしていたのが実態ですから、キャッシュがない。バタバタと倒れるのではないでしょうか。アメリカにそんな力はない。頼みの綱の中国もリーマンショック後のような巨額なインフラ投資は期待できません。そもそも中国は「一帯一路」(BRI)沿線国への融資残高が1350億ドルとみられていますが、ここでの焦げ付きが今後、どっと出てくるでしょう。

対中債務はジブチでGDP比80%、キルギス40%、エチオピア20%、パキスタン7%、南ア4%などとなっています。G20は2020年末まで貧しい国々に対し、債務返済の猶予をプレッジしましたが、中国は「一帯一路」関連の債務返済はここから除外しようと抵抗しました。

もちろん、日本や欧州にはエンジンとなる力はない。トルコやブラジルやインドネシアなどはドル建ての民間債務の利払いが滞る。コロナ危機は世界経済、さらには資本主義のあり方を決定的に変質させるのではないかという気がします。

社会主義的思想への抵抗感は大幅に後退

細谷 雄一(以下、細谷)

私も、資本主義は質的に大きく転換すると予想します。変化には、その方向性や質といった根本的な変化と、速度の変化の2種類がありますが、ポストコロナの世界でより重要となるのは、前者です。

2008年のリーマンショック以降にすでに経験したことですが、中国は大規模な財政出動でインフラ投資をし、アメリカやヨーロッパも財政出動で大企業を救済し、金融機関を再生させました。これは半ばニューディールのような政府介入主義型の経済であり、1980年代に始まった新自由主義的な経済の終焉がこの頃から指摘されるようになりました。コロナ危機により、その流れは加速すると思われます。

社会にも、そのような変化を受け入れる土壌が培われています。2度のアメリカ大統領選民主党予備選挙で健闘したバーニー・サンダースや、英国労働党のジェレミー・コービン前党首は、冷戦時代なら社会主義者のレッテルを貼られていたはずの極左です。彼らが、米英両国の2大政党の一方において幅広い支持の獲得に成功したことが示すように、若い世代を中心に社会主義的な思想への抵抗感は大幅に後退しています。全住民への現金給付は、いわば社会主義的政策ですが、日本でも10万円給付の政府方針が支持されました。

20世紀の歴史を振り返ると、大恐慌後のアメリカでニューディール政策が支持され、またソ連の「5カ年計画」による経済成長が注目されました。現代の主要な自由民主主義諸国において、経済に対する政府の大規模な介入主義的な政策が再び「ニューノーマル」になりつつあるのかもしれません。コロナ危機によりわれわれのライフスタイルや意識が変化すれば、資本主義の質的変化は一層促されると思います。

船橋:ライフスタイルの変化が資本主義の変容を促す、例えばどんなふうに……。

細谷:コロナ危機を契機にわれわれの日常的な生活にサイバー空間がより深く組み込まれ、さらに、AI搭載のロボットや技術がわれわれの生活に入り込んでくるということです。若い世代はスマートフォンを自在に操り、ネットやSNSから情報を収集し危機をうまく乗り超えようとしています。また、例えば、AI搭載のロボットであれば感染と関係なく移動できますから、ドローンを利用した配送システムが普及する契機となることも考えられます。

そのようなライフスタイルの変化にも促され、質的に変化する資本主義の世界で、新しい経済モデルを作ることが今後の課題となると思います。

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