ポストコロナ「世界経済は根本的に変質する」 超監視社会の登場は民主主義にどう影響するか

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船橋:戦後、アメリカの民主主義の歴史を振り返ると、ニューディール以降、長い時間をかけて民主党政権が確立した社会保障制度を、1952年に共和党が受け入れたとき、アメリカの自由主義と民主主義は結合したのだと思います。しかし、レーガン政権の登場で自由主義がネオリベラルへと異常増殖し、格差の拡大で社会が小さくなっていった。「ボウリングを1人で遊ぶ」市民の台頭で、共同体が消滅していった。

クリントン政権の時代には、民主党と共和党が激しく対立し政党間の寛容が、オバマ政権時代には人種間の寛容が消えていきました。待ちの順番を「横から割り込む」少数派や移民たちへの一般市民の不満が募った。そこに登場したのがトランプだったわけです。

トランプに象徴的に示される欧米社会のポピュリズムは「非民主主義的な自由主義に対する非自由主義的な民主主義の反乱」だと言われています。ネオリベラルという自由主義原理主義ウイルスがはびこり、グローバル化がそれを世界中に伝染させ、シリコン・バレーと深圳(しんせん)の鬼子たちを生んだ。

いま、欧米社会で噴き出しているポピュリズムはそれに対する反動という側面を持っていることは確かです。コロナ危機を契機にして、そのポピュリズムはより専制的な性格へと傾斜しつつあるようにみえます。ハンガリーやセルビアなどがその典型でしょう。ソーシャル・ディスタンシング時代、デモ隊も抗議運動もいともたやすく禁止できます。権力側が気に食わない野党の政治家やジャーナリストは「自己隔離」に追いやることができる。

ポピュリズムに対抗するには?

ポピュリズムは国民を敵味方に分断する政治です。分断のための分断の政治です。それに対抗するには経済・教育・健康格差の縮小や「大きな社会」の再生や政党政治のガバナンス再確立などが必要になるでしょう。そして、おそらく国民の一体感をいかに取り戻すか、です。

それが集団アイデンティティに上塗りされる排他的な民族ナショナリズム(ethnic nationalism)であってはなりませんが、個人アイデンティティを大切にする普遍的な価値観を共有する公民ナショナリズム(civic nationalism)ともいうべきナショナルなものを社会に根付かせることがこれから必要になってくるのではないでしょうか。歴史や伝統、家族やコミュニティーを大切にし、危機に際しては国民が一体となって戦うことができるナショナリズムです。愛国心といってもいいのですが、それよりももっと市民的権利に根差した、そして多様な中の統一を体現するナショナルな民主体制のことです。

そうした開かれたナショナリズムこそが、民族的ナショナリズムを封じ込めることができると思います。コロナ戦争をともに戦い抜いた体験は、日本の新たな国づくりの原体験になるはずです。そこからこうした健全な公民ナショナリズムが生まれればいいな、と考えています。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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