ポストコロナ「世界経済は根本的に変質する」 超監視社会の登場は民主主義にどう影響するか

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船橋:その可能性を秘めているのは、どこでしょう。

細谷:私は、韓国、台湾、シンガポール、香港に注目しています。もともと権威主義体制下にあった国や地域ですが、危機の時代にあって、国家権力がどの程度経済に介入するかが、重要な意味を持っています。中国は介入の度合いが強すぎ、英米は弱すぎるのだろうと考えています。日本はその中間かもしれません。

言うまでもなく、経済と安全保障は連動しています。戦後の西側の先進諸国はアメリカの覇権下で安全保障体制を確立し、経済を発展させました。

一方で、1970年代には先進諸国の背中を追いかけて、新興工業経済地域、いわゆるNIEs諸国が急速な工業化を成功させました。このうち「アジア四小龍」と呼ばれたのが韓国、台湾、シンガポール、香港の4カ国・地域でした。ハーバード大学教授のエズラ・ヴォーゲル教授が「四小龍」と称する、東アジアの4カ国・地域の発展はかつて「開発国家型」と呼ばれましたが、そのモデルとなったのは戦後日本の高度経済成長です。

東アジアを専門としたアメリカの政治学者チャルマーズ・ジョンソンは1970年代の終わりに「開発国家論」を唱え、日本で政府が積極介入することにより経済成長を遂げたことに注目しました。権威主義体制下でその国家主導をより徹底させ、国家権力による強力な介入で経済成長を実現させたのが四小龍でした。

世界各国の中で、現在進行中のコロナ危機に最もうまく対処しているのが、この4カ国・地域だと思います。韓国はドライブスルー方式やウォーキングスルー方式の検査を取り入れ大規模なPCR検査を実施し感染拡大を食い止め、台湾はデジタル担当大臣自らがマスクの在庫データを管理するアプリを作成し、政府がすべてのマスクを買い上げて流通を管理する制度を作り上げました。移民が多いシンガポールでは、最近は感染拡大が見られますが、初期の対応は鮮やかでした。これは偶然ではありません。

国家権力は強すぎても弱すぎてもうまくいかない

MIT教授のダロン・アセモグルとシカゴ大学教授のジェイムズ・A・ロビンソンの共著の、今年1月に邦訳が発売された『自由の命運』の中で、著者たちが国家権力は強すぎても弱すぎても経済成長はうまくいかないことを指摘しています。国家権力が強大な独裁国家は監視社会に陥りやすく、「専横のリヴァイアサン」となり市民の自由が制限されます。他方、それが弱すぎると「不在のリヴァイアサン」となり、緊急時に迅速な対処ができません。

かつて「四小龍」と呼ばれたこの4カ国・地域こそ、国家権力と市民の自由のバランスに優れた政策が可能となっていると考えています。コロナにうまく対処できた国々は、経済成長においてもこれまで成功を示してきました。ポストコロナの世界では、このような国家のあり方が、1つのモデルになるだろうと思います。

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