オンライン授業「著作物の利用」はどう変わるか 円滑に使えるように、様々な取り組みが進む

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――著作物を円滑に利用できるように、文化庁が通知(3月4日付)を出すなど、さまざまな動きがみられます。また、予定を大幅に早めてこの4月中に政令を改正し、上記改正法が施行されると報道されています。

困難な状況に対応しようと関係者の皆さんが尽力してくださる姿には、励まされる思いです。

「授業目的公衆送信補償金等管理協会」(SARTRAS)を構成する著作権等管理事業者・関係団体やJASRACなど、複数の団体が柔軟な対応をとることを表明しました。また、SARTRASが2020年度に限り、補償金を無償とする方針を固めたとのことです。

一方で、利用する教育機関側にも配慮が求められます。改正法は、オンライン授業等における著作物の利用は「必要と認められる限度」に限られると定め、利用の態様が著作権者の利益を不当に害さないことを求めています。

改正法施行前に、緊急対応としてオンライン授業を行う場合も同様に考えるべきでしょう。

あくまでも授業に必要な範囲で、またアクセス権限の管理などセキュリティーにも十分に配慮して利用し、権利者側の好意をあだで返すことのないように留意してほしいと思います

「米国型フェアユースの導入」は必要か

――このような問題が表に出るたびに「米国型フェアユース」制度を導入するべきではないかとの声があがります。どう考えますか。

米国型フェアユースとは、アメリカの著作権法上の制度で、著作物の性質や、使用の目的・性質等の要素を考慮して「公正利用」(フェアユース)と認められる場合には著作権侵害にはならないという包括的な規定です。

確かに、新型コロナウイルスの蔓延のような想定外の事態が発生したときには、迅速な対応をするためにフェアユースの規定が有意義であるようにも思えます。

しかし、緊急事態の中で作った法律も、その後廃止されるまでは長年にかかって効力を有する可能性があるので、迅速な立法がよいとは限りません。

漫画家をはじめとする権利者の寛容と、利用者の作品に対するリスペクトの間で、同人誌など、著作権法的にはグレーなコミケ文化が豊かに育まれてきたように、この社会には、著作物についての絶妙なバランス感覚があると思います。

オンライン授業に伴う著作権法上の問題については、引き続き、著作権者と利用者がバランスを取りながら、子どもたちや学生の学びの機会を守る解決策を見出すことを期待したいと思います

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