中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃

武漢「初動対応」の実態、1万3000字リポート

武漢の病院の救急治療室、多くの新型肺炎患者が亡くなった。写真はイメージ(写真:財新記者 丁剛)
中国の独立系メディア「財新」の取材班は新型コロナウイルスの感染拡大期に、武漢で何が起きていたかを突き止めた。昨年12月末に実施されていた新型コロナウイルスの遺伝子解析の結果はなぜ早期に対外公表されなかったのか?  その全容を1万3000字超の長編記事にまとめた。これは「財新」渾身の調査報道だ。

2月24日までに2660人以上の死者と7万7000人以上の感染者を発生させた新型コロナウイルス。過去をさかのぼって追跡すると、SARS(重症急性呼吸器症候群)に近いこのウイルスはいつ発見されたのだろうか? 財新の取材班が多くのインタビューを行い、また関連する論文やデータベースの資料による裏付けを整理して情報のパズルを組み立てると、その全容が少しずつ明らかになってきた。

本記事は「財新」の提供記事です

種々の証拠が示している通り、昨年12月末までに、少なくとも9人の原因不明の肺炎患者の検体サンプルが武漢の各病院から集められていた。検体サンプルの遺伝子配列によれば病原体はSARSコロナウイルスの一種で、この検査結果は続々と病院にフィードバックされ、衛生健康委員会と疾病管理センターへと報告されていた。

1月9日には中国中央テレビ(CCTV)において、「武漢ウイルス性肺炎病原検査結果の暫定評価専門家チーム」が病原体を「新型コロナウイルス」であると正式に発表したことが報道された。

12月27日には最初の解析結果が報告

2019年12月15日、華南海鮮市場(訳注:当初、感染源と見られていた武漢の市場)で配達員として働く65歳の男性が発熱した。12月18日、彼は武漢市中心医院本院の緊急外来を受診した。医師は市中肺炎ではないかと疑い、患者を当該病院の救急科病室に入院させた。市中肺炎とは細菌やウイルス、クラミジア、マイコプラズマなど多くの微生物によって引き起こされる肺炎の総称だ。主な症状はせきと胸の痛みである。

12月22日、この患者は病状が悪化し、集中治療室(ICU)に収容された。医師は各種の抗生物質を使用して治療に当たったが効果が見られなかった。武漢市中心医院呼吸内科の主任である趙蘇医師によれば、12月24日、呼吸内科の副主任を務める医師がこの患者に対して内視鏡による気管組織のサンプル採取を行い、患者の肺胞の洗浄液サンプルを第三者検査機関である広州微遠基因科技(ビジョンメディカルズ)に送ってNGS(次世代シーケンサー 訳注:遺伝情報の解析で基本的な作業となる塩基配列の読み取りを高速に行う装置)による解析を依頼したという。

ビジョンメディカルズは、2018年6月創立。その人材募集要項によれば、腫瘍学と感染病原学における精密医療に力を注いでおり、次世代シーケンサー技術を擁する。

「華大基因(訳注:BGI、深圳証券取引所に上場するゲノム解析の大手)が遺伝子解析技術で起業して以来、国内では大小さまざまな遺伝子配列の解析企業が数多く生まれました。ここ数年、私たちは各種の医学検討会において、次世代シーケンサー技術についての紹介を絶え間なく受けています。これらの企業が医薬情報担当者(MR)を大病院に派遣してプロモーションを行うのです」と、趙蘇は財新記者に対して述べた。

もう1人、武漢協和医院の医師も次のように述べている。「1回の測定で600万個の塩基配列を解析して3000元(訳注:日本円で約4.6万円)です。この3000元で病原体がいったいどんなウイルスまたは細菌なのかを調べることができ、患者の命を救えるかもしれないのです」。

一般的に、遺伝子配列の解析企業は3日後、(今回の場合は)つまり12月27日には解析結果を提出する。しかし、ビジョンメディカルズは書面での報告書を提出しなかった。「彼らは電話で知らせてきただけです。新しい種類のコロナウイルスだと」。趙蘇はそう話した。このとき、この患者はすでに、12月25日に武漢同済医院へと転院していた。

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