財新の取材班が入手した解析結果の中では、SARSコロナウイルスについて次のように説明されている。「このウイルスの感染経路は近距離の飛沫感染または患者の気道から出た分泌物との接触によるものであり、明らかな伝染性を備えている。多くの臓器系統に負担をかける特殊な肺炎を引き起こすものであり、この肺炎はSARSとも呼ばれている」
「彼らの遺伝子データベースは不完全で、おそらく再検査も行っていません。だから小さなミスを犯したのでしょう。実際にはSARSではありません。これは新型のコロナウイルスです」。遺伝子配列解析の専門家が財新の取材班にそう教えてくれた。
しかし、この小さなミスを含んだ解析結果が、すぐに武漢の医師たちの注目を集め、ソーシャルメディアを通して大衆に対する警鐘を鳴らした。そして、多くの人々の生命を救うものとなったのだ。
3人の医師は警察に訓戒を受けた
12月30日、北京博奥医学検験所の解析結果が武漢市中心医院の医師たちのWeChatグループチャットの中に現れた。当日の夕方17時48分、武漢市中心医院の眼科医であった李文亮が同期生のグループチャットで次のような情報を発信している。
「華南海鮮市場で7つのSARS症例が発生し、私たちの病院の救急科で隔離されている」
19時39分、武漢市赤十字医院の神経内科医である劉文は仕事用のWeChatグループチャット「協和紅会神内」で、次のように投稿した。
「たった今、第二医院(武漢市中心医院)の後湖分院で、コロナ感染性ウイルス肺炎の症例が見つかった。華南の周辺は隔離されるかもしれない」「SARSと基本的に確定、看護師たちは野次馬で見に行ったりしないこと」
20時48分、武漢協和医院腫瘍センターの医師である謝琳卡は、腫瘍センターのWeChatグループチャットで次のような情報を発信した。
「しばらく華南海鮮市場には近づいちゃダメ。現在でも原因不明の肺炎患者(SARSに似ている)がたくさん発生している。今日、私たちの病院は華南海鮮市場の肺炎患者をすでに何人も収容した。マスクをつけて、部屋の換気に注意しよう」——この3人の医師は全員、この後、警察による訓戒を受けることになった。
当日、はるか遠くの広州市黄埔にいた「小山狗」の筆者はこうした情報を知り、次のように書いている。
「12月30日までに耳に入った類似症状の患者はほかにもたくさんいる。また神経がすぐにピンと張りつめてきた。たぶん30日の午後だろう、同業他社がほかの患者のサンプル中に同じ種類のウイルスを発見したようだ。でも彼らはストレートにSARSコロナウイルスを発見したと報告してしまったので、瞬時に情報の爆発的な伝播を引き起こした……この同業他社は遺伝子配列を私たちにも送ってくれたが、分析してみると、確かに(自社で以前に解析したのと)同じ種類のウイルスだった! 潜在意識の中に浮かび上がった最初の考えは『このウイルスには感染性がある』だった!」
李文亮たちが開けた事実を覆うふたは、企業による遺伝子解析という1本のストーリーを、臨床医師による警告というもう1本のストーリーと交わらせた。武漢市中心医院の医師たちは絶え間なく出現するウイルス性肺炎患者に対する通常の治療を行ったものの効果がなく、遺伝子配列の解析企業に答えを得るべく望みを託した。
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