中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃 武漢「初動対応」の実態、1万3000字リポート

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「当時得られていた情報では、この患者は地方の実家に戻ったことがあり、コウモリに接触した可能性を排除できなかった。問題の潜在的な深刻さを認識する。実験室の全面的な洗浄と消毒を実施し、サンプルを無害化して廃棄。実験に関わったスタッフに対して関連するモニタリングを行う。正午前には病院の医師にも知らされ、患者も隔離された」

「この新型コロナウイルスを最初に発見したのはわれわれだろう」。「小山狗」はその文章の一文でGISAIDのスクリーンショットを載せてそう述べている。「GISAIDデータベースに提出されたデータを見れば、サンプルを収集した時間が最も早いのはわれわれだ」と。

GISAIDは世界的なインフルエンザウイルスのデータ共有プラットフォームで、科学研究に携わる研究者たちは登録をした後、自分が解析したウイルスの遺伝子配列をアップロードすることができる。それぞれのウイルスには独自のコードが付与され、採集日時、提出日時、提出した実験室などの情報もすべて記録される。

財新の取材班は当該データベースを精査。サンプルの採集時間に基づけば、GISAIDで最も早い新型コロナウイルスの遺伝子配列は2019年12月24日に採集され、中国医学科学院病原所により1月11日にアップロードされたものであることがわかった。コードと名称などから、これがすなわち「小山狗」の投稿に載せられたスクリーンショットの中に表記されている、彼らの会社が解析に関与したサンプルの遺伝子配列であることがわかる。

この文章はさらに、12月27日、28日に当該企業の幹部が病院や疾病管理センターの一部門と電話で話し、29日、30日には自ら武漢を訪れて、病院と疾病管理センターの幹部に面会し、解析結果を報告して意見を交わしたことを明らかにしている。

報告した解析結果には「われわれと医学科学院病原所のすべての解析結果が含まれている。すべては緊張した秘密保持下の厳格な調査の中で行われた(このとき、病院と疾病管理センターの担当者はすでにたくさんの類似症例の患者がいることを知っており、われわれが解析結果を伝えた後、緊急的な処置を開始していた)」

すでに述べた最も早く遺伝子配列が解析されたサンプルの患者は、その後、金銀潭医院にて治療のかいなく亡くなっている。この12月27日にすでに新しく発見されていたウイルスについての研究成果は、その当時、何の効果ももたらすことはなかった。

解析結果は「SARSコロナウイルス」?

実際には、最初期のこの症例のほかにも、2019年12月末までに、武漢市中心医院からはさらに2つの「原因不明の肺炎」患者のサンプルがそれぞれ異なる検査機関に送られ、遺伝子配列の解析が実施されていた。この2つのサンプルの解析結果は、それぞれ異なる経路を通して、公開の場で、今回の感染拡大に対する重大な影響を及ぼした。

12月27日、陳と名乗る41歳の男性が武漢市中心医院の南京路分院で受診した。「彼は会計士で、家は(武漢市の)武昌にあり漢口の華南海鮮市場には一度も行ったことがありません。12月16日頃から原因のはっきりしない発熱が始まり、最高体温は39.5度に。動悸と胸の痛み、動いた後の呼吸困難が見られ、体力が明らかに低下していました。まず12月22日に江夏区の第一人民医院を受診しましたが、よくなりませんでした」

趙蘇が財新の取材に対して明らかにしたところによると、「彼は私たちの病院の医師の知り合いで、27日に私たちの病院にやって来て、救急科に入院しました」。12月27日の夕方、当該病院呼吸器科の集中治療室で、この患者に対する内視鏡による気管支組織のサンプル採取が行われ、このサンプルは次世代型シーケンシング技術を持つ別の企業、北京博奥医学検験所に送られた。

12月30日、北京博奥医学検験所はこの患者の解析結果を医師に報告した。解析結果はまさに「SARS coronavirus(SARSコロナウイルス)」であるというものだった。

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