中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃 武漢「初動対応」の実態、1万3000字リポート

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2020年2月21日、この症例の遺伝子配列の解析情報が、ビジョンメディカルズの微信(WeChat)アカウント「微遠基因」で公開された。この文章の中には、1月27日に『中華医学ジャーナル』(英文版)で発表された論文で新型コロナウイルス発見の顛末が紹介されていることと、ビジョンメディカルズが新型コロナウイルスの早期発見に携わったことが書かれている。

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この論文とは、1月29日に発表された「人の重症肺炎を引き起こす新型コロナウイルスを特定:ある記述性の研究」を指している。

共同執筆者たちは、中国医学科学院/北京協和医学院病原生物学研究所(以下、中国医学科学院病原所)、中日友好医院、湖北省疾病管理センター、湖北省武漢市金銀潭医院、武漢市中心医院、ビジョンメディカルズなどに所属している。

ビジョンメディカルズのCTO(最高技術責任者)である許騰がこの論文の筆頭執筆者だ。他にも、ビジョンメディカルズのCEO(最高経営責任者)である李永軍とCOO(最高執行責任者)である王小鋭も共同執筆者として名を連ねている。李永軍はかつて中国医学科学院病原所で生物情報のアナリストを務めていた。

この論文によれば、研究者たちは武漢市金銀潭医院の重症肺炎患者5人の臨床データと気管支肺胞の洗浄液サンプルを収集し、メタゲノム解析(訳注:従来手法では検出できなかった細菌を検出する解析技術)ができる次世代シーケンサー(mNGS)による解析を行った。その結果、これらのサンプルのすべてにおいて、これまでに報告されたことのない、SARSウイルスとの塩基配列の類似度が79%に上るコロナウイルスを発見したのだ。

論文の中では、この5人の患者のサンプルの中で、最も早く遺伝子配列の解析が行われた臨床サンプルが、12月24日に採集された65歳の患者のものだったことが示されている。この患者は12月15日に発症し、症状としては高い発熱、せき、少々の痰が見られた。18日に入院し、12月22日には集中治療室に収容され、16日間が経過後も高い発熱が続き、重度の呼吸困難に陥ったとのことだ。

「特別な意味を持った病原体がサンプルに」

この情報と同じく高度に符合するのは、WeChatアカウント「小山狗」が1月28日に公開した「最初に新型コロナウイルスが発見された経緯を書いてみる」という文章だ。筆者はコメント欄で、広東省広州市黄埔にある民間企業に務めていると述べている。

この投稿にはこう書かれている。「2019年12月26日、出社してすぐに、いつもと同じようにここ1日の病原微生物のmNGS自動解析結果をざっと閲覧した。意外なことに、ある1つのサンプルでセンシティブな病原体が報告されているーーSARSコロナウイルスだ。数十本の遺伝子配列がある中で、このサンプルにだけこんな特別な意味を持った病原体があるのだ。頭と心が瞬時に緊張した」

「バックエンドですぐに詳細な分析データを調べてみると、類似度はそれほど高くなく、約94.5%というところだった。解析結果の信頼性を確認するために、詳細な分析を開始する。探索バージョンの分析結果はこの病原体がBat SARS like coronavirus(コウモリ由来のSARS類似のコロナウイルス)に近いことを示していて、全体的な類似度は87%くらい。そしてSARSとの類似度は約81%だった」

この文章の筆者は、該当する患者のサンプルが採集された日付が12月24日であったことも明らかにしている。文章の中で次のように述べている。

「フロントエンドからこの患者が重症であることが知らされ、すぐに解析結果が必要だと言われた。だが、こんな重大な病原体については決して軽々しく報告することはできない。正午になって数人の幹部が緊急会議を開き、詳しい分析を継続し、報告の提出を遅らせるとともに、データを中国医学科学院病原所にも送って分析してもらうことを決定した」

中国医学科学院病原所とは、前述の「中華医学ジャーナル」(英文版)の論文の共同執筆者の所属機関の1つであり、ビジョンメディカルズのCEOである李永軍はかつて同所に務めていた。当時の直属の上司である中国医学科学院の院長は中国工程院の副院長・王辰だ。

12月27日、当該実験室はウイルスの完全な遺伝子配列に近いモデルを組み立て、同時にそのデータを中国医学科学院病原所へと送った。「基本的に、この患者のサンプル内には確かにBat SARS like coronavirusである新型ウイルスが存在していることを確認した」と「小山狗」の文章には書かれている。

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