受注生産だけで売れまくるチーズケーキの秘密 選べる楽しさより、1つの品質だけで勝負する
アイスクリームを食べているとき、凍った状態ではちょうどいいのに、溶けると甘すぎるように感じられることがある。これは、市販のアイスクリームがある程度凍った状態でもっともおいしく感じられるよう、味つけがされているからだ。
しかし同社のチーズケーキは、溶けた状態でもしつこくなく、さっぱりとした後味が得られる。
また、もともと理系だという氏の本領を発揮した、化学のマジックを駆使。小麦粉を使わず、水分と油分が完全に混ざり合う「乳化」の作用だけで固めている。
「小麦粉を使わないので軽さが出ますし、細胞が壊れにくいので、冷凍しても品質が変わりません。そして、解凍しても水っぽくならない」(田村氏)
しかし、説明を聞いていると疑問がわいてくる。これほど複雑な構造を持つケーキを、品質を確保しつつ量産できるものだろうか。
田村氏の答えは「できる」であった。
「正直、レストランで働きながら、睡眠時間を削って作ったケーキを口コミで販売していたときは、現在の状態を想像もしていませんでした。しかし、商品を売るなら『自分だけが作れる』ものではなく、『誰でも作れる』仕組みが必要、ということは頭にありました」(田村氏)
誰もがきちんと計量できるような仕組み
そのためあらかじめ、レシピどおりに作れば完成するように設計した。洋菓子が成功するか失敗するかは「原料の正確な計量」が第一であることから、誰もがきちんと計量できるよう仕組みも考えた。
クリームやクリームチーズなどの業務用菓子材料は大きな単位で販売されており、例えば、1kg入りよりも10kg入りのほうが当然割安だ。
コストを抑えるなら10kg入りを買うべきだが、田村氏はあえて1kgを購入する。1kgなら1kgの袋を丸ごと使えばよいよう、レシピを考えているためだ。これにより、取り分けるときの計量ミスを防ぐことができる。
また、購入した分量を使い切るので別の容器に入れて保管する必要もなく、新鮮さと衛生を保つことができる。計量という神経を使う仕事を省けるので、スタッフの作業効率もアップする。
「手の感覚で分量をきっちり量ることができる」という能力が、熟練の職人技として紹介されることがあるが、それとはまったく逆の価値観だ。
しかしだからこそ、2018年4月、自身が一つひとつ手作りしたケーキを販売し始めた時代から、わずか2年というスピードで、量産体制を整えることができたわけだ。
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