歌舞伎町ど真ん中の「三線専門店」が繁盛する訳 歓楽街に店を置く意外な必然性

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不意に、店内に三線の音が響き渡る。三線の修理を終えた店長が、試し弾きを始めたのだ。独特の音色で奏でられる、琉球音階と呼ばれる沖縄風のメロディーが、店内の雰囲気を南国に一変させる。

「ちんだみ」の外観(写真:筆者撮影)

それを聴きながら、「三線の魅力はシンプルなところですね」と比嘉さんは言う。ギターのような派手さはないけれど、たった3本の弦を単音で弾いていくシンプルさと、初心者でも比較的簡単に弾けることが人気なのだという。また、社会全体がデジタル化していることも、三線に興味を持つ人が多い理由では、と比嘉さんは続ける。

「現代はパソコンとかスマホに接することが増えて、デジタル人間になりがちですよね。仕事で大変な思いをすることも多いじゃないですか。そういう人たちが、三線というアナログな楽器に触れることで、海や山でボーっとするように、精神的に癒やされるのかもしれません」

20代前半まで、三線とは無縁の日々を送っていた

目を細めてそう話す比嘉さんからは、三線への強い愛が感じられる。だが実は、20代前半まで、三線とは無縁の日々を送ってきたのだという。比嘉さんは沖縄の高校を卒業した後に上京。これまで雪を見たことがない、という理由で、スキー場でアルバイトなどをする日々を送る。23歳で沖縄に戻り、父が経営していた会社の新事業に携わるように。それが、三線の貿易だった。

「父は中国とつながりがあったんです。それで地元の三線屋さんから、『三線を海外で安くつくれないか』と言われて、じゃあやってみようと。中国で三線を製造して、沖縄で三線屋さんに販売するビジネスを始めました」

だが事業はうまくいかず、組み立て前の部品が大量に残ることに。何とか形にして売りさばかないといけない。そこで知り合いの三線屋にお願いし、組み立て方を教わったり、専用の道具を譲ってもらったりしながら、三線づくりを学んでいった。

三線は基本的に、すべて手作りで行う。電動のこぎりや工具などは用いるが、工場での大量生産でなく、職人が1本1本加工し、組み立てていくのだ。同時に演奏も猛特訓していった。三線はおろか、簡単な楽器すら触ったことがなかった比嘉さん。だが上達すると、同じ曲でも弾く人によってまったく違って聞こえることがわかり、その奥深さに魅了されていった。

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