歌舞伎町のど真ん中に、交番がある。お店に例えると超・繁盛店のその交番は、いつも人でにぎわい、時に酔っ払いやヒートアップした人の声が周辺に響きわたっている。
一方すぐ裏手、ハイジアビルの1階には、表の喧騒がうそのように、のんびりした空間がある。三線を専門に扱う、ちんだみ三線店東京新宿店だ。
歓楽街のど真ん中になぜ三線専門店…?
名前のとおり3本の弦が張られた三線は、沖縄や奄美地方に伝わる楽器。「涙そうそう」「花」といった名曲でも用いられている。ちんだみの店内には、30本以上もの三線や、バチや弦(沖縄ではチルと呼ぶ)などがずらりと並ぶ。ここでは販売のほか、修理やレッスンも行っているという。それにしても、なぜ歓楽街のど真ん中に三線専門店があるのだろう。
「もともとは沖縄・那覇で1996年に開店したのですが、東京から来た人が立ち寄って、三線を買ってくれることも多かったんです。三線は購入した後、どうしても修理が必要になるので、東京にもお店があったほうがいいよねと、2002年に練馬でオープン。2017年に新宿に移ってきました」
そう話すのは社長の比嘉健琉(けんりゅう)さん。Tシャツ姿が似合う、柔和な雰囲気の男性だ。実は新宿に移転する際、治安が悪い、地価が高い、というイメージから、歌舞伎町は除外していたそう。
しかしビルの所有者が、「文化的なお店に入ってほしい」と希望していることを聞き、問い合わせたところ条件面で合致。近くに交番があることや、ビルには警備員が常駐していること、お店がガラス張りで外から見渡せることなど、安全面でも問題ないと判断し、ここへ移ることを決めたという。
それにしても、いろいろな楽器を扱うお店ならともかく、三線を専門に扱うお店が、歌舞伎町で経営的に成立するのだろうか。客層もまったく合わないように思える。失礼ながら尋ねてみると、「三線を弾く人は東京にもたくさんいるんですよ」と比嘉さん。
2001年、沖縄が舞台のドラマ「ちゅらさん」が放映された後、沖縄ブームが到来し、三線を始める人が一気に増えた。2015年には、俳優の桐谷健太さんが、三線で「海の声」という曲を弾き語りするCMも、再ブームの引き金になった。
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