中国の初期対応の遅れを非難する論調が多く見られることについては、「『見えない』感染連鎖が広がっていて手のつけられない状態になっていたというのが実情」ではないかと一定の理解を示した。そして、もはや「中国の国内問題ではなく、世界全体の脅威である。(中略)国際社会が協力して対応していくことが求められている。中国を孤立させるべきではない」と、くぎを刺した。
今年、開催される東京五輪にも言及し、「東京オリンピック・パラリンピックへの影響を心配する前に、このグローバルな危機に際し、日本がどんな役割を果たせるのかを考えるべきである。それができないような国にオリンピックやパラリンピックを開催する資格はないと私は考えている」と記している。
WHOで、SARSの被害を食い止めた経験を持つ感染症専門家の言葉は重い。
「SARSでうまくいった戦略はもはや通用しない」
この「メッセージ」を発表した4日夕、押谷教授は筆者の電話インタビューに応じた。
これまでのSARSや新型インフルエンザウイルスとの違いについて、押谷教授は、「今回の新型コロナウイルスは、これまで人類が経験したことのない未知のウイルスだ。新型インフルエンザであれば人口の50%が感染して、人口の30%くらいが発症すると収束に向かうということがわかっているが、今回のウイルスは、どのようにピークを迎えて、さらには収束するかまったくわからない」と警戒感を訴え、「SARSでうまくいった戦略は、もはや通用しない」と話した。
一方、これまでの国の対策は感染の封じ込めに重点が置かれ、感染拡大のスピードを抑制することが目的になっていることについて、「そのために社会機能を止めるよりは(感染爆発の)インパクトを下げることを目的とすべきだ」と注文する。インパクトを下げるということは、拡大して蔓延した感染をいかにやわらげるかという意味だ。つまり死者を最小限に抑えるべく医療体制を整備する必要性のことである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら