新型肺炎「日本で感染拡大」前提の備えはあるか 「封じ込め不能、被害抑制が肝」専門家が警告

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逆に軽症の感染者が多いということは、それだけ病原性が低いということでもある。今後も感染者が増えていけば、致命率は下がっていく。

病原性が低いからといって安心はできない

だが病原性が低いからといって、安心するにはまだ早い。8096人の感染者を出して774人が亡くなった致命率9.6%(WHOの報告)のSARSだが、たとえ致命率が1%でも、感染力が強くて8万人が感染すれば800人が亡くなることになる。

今回の新型肺炎では、すでに日本に感染者が出ている。不顕性感染者が多数出ている可能性も否定できない。感染爆発に備えて急務なのは、押谷教授の指摘するように、医療機関の準備と国民への周知だ。非常事態に陥れば、人々は医療機関に殺到することが予想される。軽症者が多数来院すれば、医療機関は修羅場と化し、助けるべき患者への治療が滞ってしまいかねない。

武漢の病院では、診察や検査を待つ人が多数押し寄せ、十分な医療が提供されていない。医師や看護師などの医療従事者は疲弊しているうえに、防護服の不足で医師らはおむつをしながら診察を続けているという情報もある。

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武漢のようなパニックには陥らないにしても、患者が多数来院することを想定した準備を日本の政府はしているのだろうか。押谷教授が国の動きが「見えてこない」というのはそうした懸念を指している。

患者はどういった場合に受診するか。その前提となる保健所の相談電話の体制をどうするか。医療機関に殺到した場合の応援要員をどうするのか。検査キットの開発や、防護服などの配備を含めて協議を始めておかなければ間に合わない。さまざまな点について、早急に対策を急ぐ必要がある。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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