そのためには2次医療圏(複数の市町村にまたがる病院・診療所の区域。全国に約340ある)ごとに、押しかける患者をどのように受け入れるかなどの医療体制を整備していくことが肝要になる。医療設備や人的リソースの事情は医療圏によって大きく異なる。このため患者が殺到した場合にどのように対応するのかという準備が必要になる。
押谷教授は、「地域ごとに異なる医療資源などを前提に協議を開始すべき」とし、国の対応については「なかなか見えてこない」と対策の遅れを指摘した。
「見えない感染」が広がっている可能性
筆者はかつてSARS(2002~2003年)、新型インフルエンザ(2009年)など人獣共通感染症の取材をした経験がある。今回の新型コロナウイルスによる新型肺炎の感染力の強さは恐れるに十分だと考えている。メディアの役割として、不安をあおるような記事を書くことにはためらいがあるが、今回だけは押谷教授のいうように、日本に「見えない」感染が広がっている可能性が捨てきれないと考えている。
中国当局が公表した2月4日までの感染者数は2万4324人(前日から3886人増)で、重症例は3219人、死亡は490人だ。感染者のうち死亡が占める致命率は2.0%だ。この致命率は、1月下旬段階では3%近かったが、現在はすこし低くなっている。これは、把握している感染者数が増えているためである。
感染源の武漢だけに限れば致命率は5%程度だが、それでもSARSの約10%やMERS(中東呼吸器症候群、2012年~)の約35%よりは、かなり低い。
この致命率は、医療水準や栄養状態などさまざまな要因によって変わるが、概してウイルスの病原性を反映している。アフリカで流行を繰り返しているエボラ出血熱の致命率が50~80%と高いのは、それだけ病原性が強いからだと考えられている。
1月、アメリカやイギリスの研究者のチームが武漢での感染者数について、2月4日までに約16万~約35万人に達する見込みというショッキングな数字を試算した(中国政府の公式発表では、前述のように2万人強)。
研究チームの試算では、感染の症状が表れるのはわずか5%程度だという。とすると、残り95%の不顕性感染者が周囲にウイルスをまき散らしていることになる。日本でも症状を呈していない不顕性感染者が見つかったが、感染は拡大していると考えたほうがよい。
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