怪獣の絵を描いて人生を切り開いた男の仕事観 ガンダム、ゴジラ、ウルトラマン…何でもござれ

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開田さんは昨今、作品を作るだけではなく、個展やグループ展などで展示することに力を入れているという。

「前々からイラストレーターの『受注して原稿を描いて原稿料をもらう』というシステムだけでは、いつまでもやっていけるわけがないな、と思っていたんです。

僕らが描いているキャラクターイラストも、ただの消耗品として消えてしまうのはもったいなと思いました」

ウルトラマンなど過去に描いた絵を展示し、その会場で複製画にして売ればよいのではないか?と考えた。円谷プロに企画を出したが、前例がないためなかなか通らなかった。許可をとるだけで3~4年かかってしまった。

そしてやっと許可がおりて開催したものの、訪れる人は少なく、そして複製画もあまり売れなかった。

ウルトラマンのファンはギャラリーに訪れる習慣はなく、またキャラクターイラストレーションを集めるアートコレクターも少なかったのが原因だったのかもしれない。

「2012年に『群龍割拠 猫とドラゴン展』というグループ展覧会を開催しました。イラストレーターや造形作家を集めて『猫とドラゴン』をテーマにしたオリジナル作品を制作してもらいました。そしてその作品を上野の美術館で展示したのですが、予想以上に一般のお客さんがたくさん来てくれて、とても面白がっていただきました。一般の人の目には触れにくい、ジャンル系クリエイターたちのすばらしさを知ってもらういい機会になったので、その路線の展覧会を定期的に開催しています。

また作品のファンの人向けには、知り合いのイベントディレクターと共に、ゴジラ、ウルトラマン、ガンダムの展覧会をしました。ウルトラQの展覧会は渋谷パルコというオシャレな場所で開催しましたが、多くのお客さんに足を運んでもらいました。とくに若い人や女性のお客さんが目立ちました。

『怪獣は子供っぽい趣味』とさげすむ人は少なくなって、素直に造形の面白さや、絵画の美しさを楽しんでくれる人が増えたんだなと思いうれしかったですね」

本ルポの冒頭で『レディ・プレイヤー1』について触れたが、もともとは日本人のみが楽しんでいたアニメ、怪獣、などのカルチャーは全世界に広がっている。

「変態性」が日本の取りえ

現在では、中国の人も、アメリカ人も、ヨーロッパ人も、ウルトラマンを知っている。それはうれしいことではある。ただ、この流れが進んでいったら、海外の人たちが作ったキャラクターに負けてしまうのではないだろうか? そんな不安がよぎる。

開田さんの話には、誰にも負けない怪獣や特撮、アニメへの愛が詰まっている(筆者撮影)

「確かに技術的には抜かれている部分はあります。でも日本人が作る『へんてこ』な感性は残っています。『変態性』といってもいいかもしれません。

『よく、こんなもの思いつくよね?』

というのが日本の取りえだと思います。それは古くからのエロやグロを含めた寛容で自由な発想が培ってきた肥沃な土壌があるから生み出せるもので、これだけは一朝一夕では抜かれないと思いますよ」

開田さんと話していると、本当に怪獣や特撮、アニメが好きなんだな、とひしひしと感じる。仕事の話になると、

「運がよかっただけ」

と遠慮気味に語られるが、もちろんただ単に運がよかったからではない。

誰にも負けない、

「怪獣が好き」

という気持ちがあったからうまくいったのだ。

「好きこそものの上手なれ」

と簡単に言うが、本当にずっと好きでいつづけるのは難しいものだ。

開田さんにはこれからも、多くの人たちが心をわしづかみにされる、怪獣やロボットの絵を描き続けてほしいと思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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