怪獣の絵を描いて人生を切り開いた男の仕事観 ガンダム、ゴジラ、ウルトラマン…何でもござれ

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「実績のない僕が、ベテランイラストレーターをアシスタントに使っていいの?と疑問に思いましたけど、問題はなかったですね。イラストの仕事は、要求される技術を満たしていたら、年齢の上下や、経験年数の長い短いは関係ない世界なんだな、とそのとき気づきました」

仕事は完成し、日本イラスト年鑑にも掲載されている。

最初はさまざまな仕事をしていたものの、だんだん怪獣や特撮の仕事の割合が増えていった。それは、怪獣倶楽部からの人間関係が大きかった。

開田さんオリジナルの怪獣画(開田さん提供)

「1980年の朝日ソノラマから『宇宙船』という雑誌が発売されました。いきなり『表紙を描かない?』と言われて、創刊号から表紙イラストを描かせていただきました」

その頃には、怪獣ブームが訪れていて、それまでには無かった大人向けの怪獣関係商品も出始めていた。

「往時のウルトラマンや怪獣映画はあまりカラー写真がなかったんですよ。

『子供向けの本でさんざん使った子供向けの写真を、大人向けのアイテムにも使うのはどうか?』

『ならばイラストにしよう』

ということになって発注していただいたんではないでしょうか?」

それまで商品化されることのなかった『ウルトラマン』『帰ってきたウルトラマン』のBGMサントラレコードのジャケットの仕事なども来た。

「それぞれの仕事の担当さんが、とても柔軟で理解のある人でした。普通は商品のパッケージイラストの仕事はガチガチにデザインを決められることが多いのですが、

『自由に描いてくださって大丈夫です』

と言っていただきました。僕には、怪獣やウルトラマンには描きたいイメージがたくさんあったので、『それを好きなだけ描いてお金がもらえるなんてこんなにいい仕事はないな!!』と思って描いていました」

「ガンプラの箱絵描かない?」

1981年8月には『第1回アマチュア連合特撮大会』というイベントが中野公会堂で開催された。翌年第2回が開催され、合宿込みの開催だったため、実行委員長を拝命した開田さんも泊まり込みで参加して、てんてこ舞いになって働いた。

そんな時に、怪獣倶楽部の仲間であった、安井尚志さんが話しかけてきた。安井さんは、

「ガンプラ(ガンダムのプラモデル)の箱絵描かない?」

と言った。安井尚志さんはガンプラブームを作り上げた人の1人だ。ガンダムのプラモデルに乗って戦う漫画『プラモ狂四郎』の原作者の1人でもあった。

そして安井さんの隣には、バンダイのガンプラ箱絵担当者が来ていた。

「当時ガンプラはものすごいブームでした。ちょうど箱絵を描く人が足りなくなっていたらしいんです。声をかけられて、思わず、

『はい、やります!!』

と勢いで答えていました。

プラモデルの箱絵って子どもたちが最初に見る絵画じゃないですか。実績も経験も実力もないのに、いきなり受けていいものじゃないです。冷静なときに声をかけられたら『考えさせてください』と一旦保留していたと思うんです。でもイベントで舞い上がっていたので勢いで受けてしまいました」

そして原稿を仕上げたのはそれからたった10日後だった。当時のガンプラブームがいかに切羽詰っていたのかがうかがい知れるエピソードだ。

開田さんが描きあげた、1/100スケールのプラモデル『モビルスーツ・アッガイ』の箱絵は、当時はあまり描かれなかった背景までしっかり描かれていた。

「僕にとってプラモデルの箱絵って『戦車なら戦場を走る』『軍艦なら波を立てて海進むる』様子を描くのが当たり前でした。だからアッガイならジャブロー(『機動戦士ガンダム』内に登場する南米アマゾン川流域の地下に作られた基地)で戦っているのが自然でした。後からファンの方に、

『ああいう箱絵を見たのは初めてでした』

と言われて、そうなのかと思いました」

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